夫婦記念日


「嫌だ、と言ったらどうする?」

そう言って、目の前にいる男は意地悪く笑った。

予想だにしていなかった答えなので、一瞬固まる。

愛したい。
間接的に言うならばそんな事。
桂も同じ思いで今までいたと思っていたのは俺だけか。

「…高杉?」

呼びかけられた声に我に返る。

「言わせてやるさ。はい、と。」

そうして手を伸ばしたものの、
その前に体を後ろに引かれたために届かず、手をぴしゃりと叩かれた。

「お前は、いつもそれだ。いい加減他の方法を取ろうとは思わないのか。」
まったく、と言った体でため息をつく姿さえ美しい。

この話し合いには緊張感と言うものが無いのか。

焦っているのは俺だけで、桂は蜜柑の乗った盆を動かし始めた。
炬燵を挟んで言い合いをしている時点で、駄目なのか。

「なんで、ダメなんだ…?」
「ダメとは誰も言っていない。」

何だ、謎かけか?
ダメとは言っていないというのに、応じようという事でもない。

「理由は己で考えろ。」

その後、あの手この手で聞き出そうとすると、ひとことだけぼそりと言った。
「まだ、言っていないことは無いか…?」
そう言ったきり俯いてしまった。

寝てしまったのか?
この状況で?
でも、言わんとしていることはやっとわかった。

「桂、俺はお前の事を愛している。恋人になって、くれないか?」

桂はうつむいたままだ。
先ほどの言葉にわずかに反応したところから、起きていることは分かっているのだが。

炬燵から身を乗り出し、桂の耳元に口を寄せる。
息を吹きかけたいという衝動にかられたが、今すべきことはそれではない。

「…好きだ。」

その時気が付いた。
桂が俯いているのは、寝ているわけでも、言葉が足りない訳でもなく。
ただ、
真っ赤な顔を見せたくないだけだった。

目次へ戻る

あとがき
恋人になりました。
もう、夫婦でいいじゃない\(^q^)/
桂さんは、自分の「愛している」に対して、「俺も」としか言ってくれないのが不満だったようです。
inserted by FC2 system