何も、思わなかったのが懐かしい。


夜に会うなんて。

いや夜ではなくて、そもそも会う事さえ、久しぶりの事だろう。
いとしい人は、酒に酔っているのか仄かに笑った。

それは、はたから見れば邪悪でしかなかっただろう。
それでも、自分から見ると美しいと思ってしまう。
俺の頭も相当湧いているようだ。

「…久しぶりだな。」
「おう。」
自ら声をかけてみてもつれない返事ばかり。
いや、それは日常なのだろう。
この闇にまぎれてしまいそうに黒い人と、
対照的な髪の色をした自分との間柄はこのまま何一つ変わらないのだろう。

一歩だけ、近寄ってみる。
うすぼんやりと照らされた朧月夜で、自分の気持ちをごまかした。

見えづらいだけ。
だから近寄るんだ。

本当は仄かな明かりでも、誰だかなんて一度で分かるのに。
彼の人の事だから。
一歩後ずさられたのは、そうか。勘違いされたのか。

「別にやり合おーってわけじゃねーよ。」
そう言って、久しぶりに力の抜けたような笑みを浮かべる。

明らかにほっとして、奴は言った。
「こんな夜に喧嘩だなんて無粋だもんな。」

腰に刀を差して、カタカタと鳴らしている奴がいまさら何を言っている。
「任務中か?」
「いや、少し。外に出たくなった。」

「酒の香りがする。」
近づいた分だけ香りが近い。
「てめーが、飲んだんじゃねーのか。」
「いいや、お前酔ってるだろ。」
「ハハッ。お見通しか。」
機嫌が良いらしい。
苦笑いして言った。

「総悟の奴に飲まされた。酔い覚ましだ。」
「隊服で酔っぱらって、副長さんは不謹慎だ。」
「叩っ切ったろうか、テメェ。」
「やだね。」
木刀に手を掛けるか迷う。

切ると言いながら、奴は獲物に手を触れていなかったからだ。
ただ単なる戯言。
「無粋だなぁ。切るなんて。」
「そうだな。」

獲物の代わりに、奴は煙草に手を伸ばし、火をつけた。
煙をゆっくりと吐き出し、周りは朧の霞が増したようになる。

「月が、
 綺麗だなァ。」
そう、ゆっくりと言われる。
抑揚もなく。

「ああ。
 ただ、今夜は朧月夜だ。
 月が雲に隠されるかもな。」
「はぁ。」
ため息のような音が聞こえた。これでも真面目に答えたつもりだ。

なんとなく勘づいていたことだ。
落ち着いて答えて何が悪い。

「会ふことの 後の心に比ぶれば
 むかしはものを 思はざりけり」

ここしばらく思っていたこと、…想っていたこと。
告げるとしばらく土方はきょとんとしていた。
こういう状況は、苦手なんだ。

「これ以上言わせるつもりか?」
「それは、」

そこで一旦土方は区切ると、タバコの火をひねりつぶした。
そして、ゆっくりと俺を抱きしめた。
「これで合っているか?」

「いちいち聞くなよ。月が聞いている。」
この世界では、同性同士の恋愛は認められていないのだから。
「月が無くても、お前の元に行くさ。」

――なァ、銀時。
耳元で呟かれた声は、注意していなければ聞き逃してしまうほど小さかった。
震えている。一大決心だったのだろう。

だからと言って、アレはわかりづらかったよ。
土方君。

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あとがき
ヘタレ副長ゴチです!!
銀さんも言っていないじゃないですかって、だって告白は男の人からするべきでしょう!!
朧月夜ネタは、分からなくていいです。というよりもネタとして成立していない気が。
扇子は出しどころが無かったです。
私も自信ない。もう一度読み返すべきかな。
本当は、「死んでもいいわ」も入れたかったのですが…
でも、訳文読んでないし。イイかなと。
これは一つ目のパターンで、また別のも書いていきたいです。
なれそめ編大好き!!
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