52.色を選ぶ


カナダ国内某有名な観光地にて。

カナダは困惑していた。
「アメリカ、こんなところで何買うの」
「見てわからないかい? ちょっとしたお土産だよ」
答えたアメリカはカナダが困っているのもお構いなしに、
子供が喜びそうな笛の埋め込まれているアヒルの形をしたビニール玩具を片手で弄んでぷひぷひ鳴らしている。
因みにアヒルのボディにはカナダ土産を主張するように国旗がプリントされているが、
ビニールの形状のせいで歪んでしまい微妙な残念感があふれ出ている。
「別に、ここのものなんてわざわざ買いに来なくても」
アメリカにとってはカナダなどいくら広大な土地を持っていようとも隣の国に変わりはないし、来るのに困るようなところでは無いのだ。
今更と言うのが正しいかもしれない。

「誰かに、持っていくの?」
それならなおさら自国のものを持っていけばいいのに、と思ったがあえて口に出さないでカナダは飲み込んだ。
「うん、まあね」
アメリカのものよりカナダのものを持っていって喜ぶ国はどこだろうと考えはしたものの、生憎思い浮かばなかった。
「…誰に?」
そう言うとアメリカは急に黙り込んでしまった。
秘密にされると知りたいという好奇心がむくむく湧き上がってくるがあえて口を突っ込まない。
その奔放さから忘れてしまいがちになるが、アメリカは軍事力的にも経済的にも世界一の超大国だ。
いやむしろ誰にも脅かされないような力を持っているからこその、この自由人なのかもしれないが。

「君のおすすめはないのかい?」
「王道で言うと、メープルクッキーのあたりだけど」
なぜかアメリカが寄り付こうとしない通りの向こうのお菓子のお店を指さしてみたが、いや、と断られた。
「お菓子以外で。お茶うけはもうあるからな」
「買っておいたの?」
「向こうでもう用意してあるんだよ」
いらないって言ってるんだけどね。
アメリカの口調は幸せそうだった。
多分、いらないといいながらもちゃんと食べてあげているのだろう。

「他には、そうだねテディベアとか?」
くま二郎さんを模して作ったホッキョクグマのぬいぐるみが最近少しずつ人気が出ている。
折角だから日本に言って手を触ると音声が出てくるやつなどバリエーションを増やしていこうとしているものだ。
「喜びそうだけど、なんか、、違う気がするぞ」
さっきはアヒルを持っていたがどうやら相手は子供じゃないらしい。
とそこまで推理している自分に気が付いてカナダは考えを止めた。
本人が知られたくないと思っていることを、しかもプライベートの事を詮索するのはあまり性格がよろしくない。

「あとはオーナメントとかかなぁ?」
楓の葉の形をしたプレートに綺麗にカラーリングしてニスで艶出し加工をしてある。
部屋の壁にそのままかけられるようにレースのリボンが結んであって、虹色に反射する細かなビーズの和が通してある凝ったものだ。
「それ、綺麗だね」
「よかった、気に入ったものがあって」
「他の色はあるかい?」
「いろいろあるよ」
ログハウス風の店内の壁にそのまま杭があって、その全てにオーナメントらしくかかっている。
「赤と青と白のヤツはないかい?」
「それなら、これとこれとこれと…」
数個手に取ったところでふと疑問に思う。
色だけは決まっていたみたいな言い方をするから。

「ああ、自分の色か」
「…違うよ」
独り言の筈だったが聞かれていたらしい。
「これにするよ」
「よかった。決まって」
アメリカの手には二つ握られていた。
「じゃあ別にラッピングしようか?」
「一つは俺のだからいいよ」
「誰かとお揃いってことか」
「そう、重要な色だから」
もう、これで誰だか分かった。

「…じゃあラッピングも紺に赤いリボンにしようか?」
「分かった?」
「俺の事もよろしく言っておいてよ」
「りょーかい」

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11/24
幸せそうなリア充米英が好きです。英、一言も出てきてないけど。
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