45.巡り巡って


ある日、愛を拾った。
「だから、やるよ」
放り投げたそれは無事に相手の手に届いた。
「そうか。これは、どうすればいいんだ?」
「好きなようにすれば?」
こうやって、愛は手から離れていった。

でも毎日奴は来た。
「なあ、これを次に渡すやつを決めたいんだけど」
「俺はお前に渡したんだよ。自分で決めろってーの」
「本当にそれでいいのか?」
そんな風に聞いてきて、何も言えなかった。
「じゃあ」
と、結局俺が次の人を選んでやった。

「本当に渡してくるぞ?」
「…ああ」
そもそもいらなくて奴に渡したのに、何を確認してくるのだろう。
でも、もしかしたら次の人は奴に同じようにお伺いを立てるのかもしれない。
それは気に食わないな。
鬱陶しかったけど、毎日訪ねてくる相手をするのは、認めたくないけど楽しかったから。

次に愛を見たのは、神楽の手元だった。
「どうしたんだ、それ?」
「サドからもらったネ」
うーん、どんな経路をたどったのかわからないな。
新選組の中で何人かの手に渡されたのだろう。結局最後の総一郎君が要らなくなって神楽に渡したのだろう。
何でみんな要らないのにもらってしまうのだろうか。
でもなんかわからない魅力があるのだ。俺がつい拾ってしまったように。結局思ったほどいいものではなかったけれども。
「誰にあげればいいと思うね」
「総一郎君に返せばいーだろ」
多分、普通に引き受けてくれるはずだ。

「で、なんでここにあるワケ」
「俺がお前にやるって、渡しにきたからじゃねーか?」
「それをなんでって言ってんだよ。ちゃんとした説明をしてくれ」
俺はいらないってお前に渡したのに。
「俺がお前に受け取ってもらいたいからだ」
「でも俺はいらないんだよ、土方君」
「別に持っていて不便なものでもないだろう」
そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。
「愛をちゃんと持っていたことあるか?」
「ないよ」
前に持っていたことがあったかもしれないけど、愛と認識する前に手のうちから消えてなくなっていた。
「じゃあ持ってみてからいうんだな」
「へェ、そう。じゃあ要らなかったらまた土方君に返していいわけ?」
「そうしたらまたお前に渡す。何度でも」
それじゃあ繰り返すだけだ、意味がない。

「とりあえずちゃんと受け取れよ」
土方の手から渡された愛は、前に持った時よりも重くなっていた。
そして、あたたかくて、気持ちがいい。小動物を抱えているみたいな儚さもある。
「いいもんだろう?」
うかがうような土方の顔を見ることができなかった。
何でだろう、顔が熱い気がする。

「これが、愛ねぇ」
「そうだ。それでも要らねえか? 煩わしいか?」
「…暫くしたら渡す」
いつまでも持っていたら、さらに重くなりそうで。
でも“しばらくしたら渡す”の裏返しは“しばらくは持っている”
それに気が付いて土方は少しうれしそうに笑った。

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愛はそのまま愛です。愛を忘れたらそれはさびしいことだろうと。そして新八君がいなくなりました、ザ・空気! ビバ・眼鏡!
ちなみに土方さんが銀さんに言われて渡したのは山崎くんです。それから近藤さん→お妙さん→ぱっつぁん→近藤さんのところに返されてから沖田君のところに行ってます。
愛は別に恋愛に限らないので、男同士のところは土方さんがそう解釈しているだけで特にそういうよこしまな気持ちではないです。
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