44.知識の宝庫


今日は出不精の恋人を引っ張ってきた。
「あ、かわいー、この花」
「ストレプトカーパスという名前ですよ。別名はケーププリムローズ。花言葉は真実です。
 白の他にも青、青紫、紫、赤、ピンク、白、黄色などがあります。
 ギリシア語でねじれた果実という意味で果実がこよりのようにねじれた状態で成るんです」
「へー、そうなんだー。うちにも置けないかなぁ」
「難しいとは思いますよ。熱に弱いらしいのでこれからの季節は要注意です。室内で栽培するのが基本のようです」
「でもこれは外にあるよね」
「夏以外は柔らかい日差しの下に出さないと今度は花が付きづらくなってしまうので。ここは風通りもいいですし」
すらすらと言葉が出てくる。今日は、かなり饒舌だ。外に連れ出してよかった。

「何でも知ってるね、君は」
「何でもは、知らないですよ」
それで知らないと言われるとこちらは無知もいいところだ。

「だって、さっきからずっと話してるじゃない」
「不快でしたか?」
「まさかー。全然。今日は本当に良かったと思って」
いやーほんと、大成功。
「でもね、結構静かな方だと思ってたけど、僕の勘違い?」
「あ、あの、ご迷惑でしたか。」
「え、なんで?」
こっちでは内心喜んでいたんだけど。
と思っていたら補足説明が入ってきた。これも進歩だよね。ってほめたりすると馬鹿にされていると思って怒るだろうか。
でも、そうやって怒ることも重要だよ、とあくまで先輩ぶってみる。
「いえ、あの、静かだったらいけないかなともって、覚えてきたんです…。」

「僕のためなの?」
「あ、いえ、あの……はい」
可愛いなぁ。
少し赤くなって俯いている横顔とか。
うなだれているようなその格好のせいで20センチも違う身長の僕と頭の高さがほぼ同じだとか。
「どうしてそんなに可愛いのかなぁ。困らせるつもり?」
「いえ! そんな!」
「なに本当に答えてるの」
こうやっていると友達からはからかって楽しんでいるだけとか、腹黒だとか言われるけどあくまで僕は本気だ。
「先輩のほうが、可愛いですよ」
「ちょっとちょっと」
しゃがんでとジェスチャーするとおとなしく腰を低くした。

額に一つ口づける。
「な、っ!?」
口をパクパクさせて、そういうところが可愛いって言ってるんだよ?
「可愛いから、つい…」
「ちょ、先輩、外ではやめてくださいよっ!」
「わかったよ、外では、もうしないからー」
とりあえずさこれぐらいはしてくれるよね。
「手、つなごうか?」
「周りからどう見られるかわかりませんよ」
「なんでー、ダメ?」
「…い、家に、行きませんか?」
あ、言ったな。
そして、恥らったな。
きゃらきゃらと楽しそうに笑うと。
「笑い事じゃありませんよ」
なんて言ってむくれてくれた。

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どっか大人っぽい先輩@背が低いと、そんな先輩が可愛くてたまらない後輩@引きこもりの話が唐突に書きたくなって。
『日常からの脱出』とか舞台の学校をそろえようかな。制服は濃いグレーの詰襟です。ボタンの土台は金色でガラスがはまってキラキラしています。
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