41.魅力あるもの


「いつもいつも豪勢なことだな」
せせら笑いを浮かべて彼はやってきた。
「派手なことを。いつか捕まるぞ」
「それはテメェも同じだろう?」
爆弾魔でテロリズムしていた者の台詞とは思えない。
そう言うと、
「昔のことだ」
とまた笑った。

「今日はどうした?」
布団の横にゆったりと桂は腰かけた。
それでも、多分警戒を解いていない。今までもそうで、これからもそうな筈だ。
だがしかし。
もう、手を伸ばしても抵抗はされない。
狂おしいほど大切なのに。

弦をつま弾く。軽やかな音が屋形船の部屋に籠った。
障子に跳ね返って鼓膜をいつまでも震わせる。
「いつもどおり、ではないのか?」
堪えきれない情欲を思いのままにぶつけたのが始まりだった。
無理やり攫ってくるように連れてきては何度も繰り返す行為に、何の感慨も抱かなくなったというのが本当のところだろう。
早く過ぎて欲しいから、そんな風に急かすのだろうか。

心配そうに僅かに動いた眉を見て、布団に押し倒した。
軽く抱きしめるように回される手が馴れからくるものなのは知っている。
何度もそう仕向けた。
それでも喜びを感じてしまう程には好きなのだ。
緩んだ頬を見せないように、桂の頭を胸に抱き込む。

苦しそうにうめくくぐもった声が聞こえた。
ただ、無視する。
「今日は、このまま寝るかァ」
「は?」
「ああ」
壊してしまいたくないと、今は穏やかな気持ちでそう思える。
好きなのだ、自分が壊れてもいいほどに。
暴れそうになる獣を押し付けて、ぬくもりを感じたままに目を閉じた。
疲れが微睡みに体を引きずりこむ。逃げ出そうとあがかれたら目も当てられない。
分かってしまう前に、逃げた。
多分、この腕から逃げ出そうとはしないだろうと期待して。

目が醒めたら。桂はちゃんといた。
ずっと起きていたのか分からないが、こちらが目を覚ましたわずかな気配を感じたのだろう、ぽつりと独り言とも思える事を口に載せた。
「お前の目撃情報を聞いた。女連れで楽しそうに歩いていると聞いて、耳を疑ったがな」
心当たりは来島また子しかいない。
非難するでもなく淡々と事実を述べているかのような口調に何か言おうか迷う。
「…捕まっては、くれるなよ」
「あァ」
それには返事をした。そんな間抜けなことはしない。

「また、何かやるのか」
言葉に愁いがにじんでいるような気がした。それが心配だったらと考えても詮無きことだ。
「お前も腑抜けたものだな」
桂はそう自嘲気味に呟いた。
それは、お前を好きになったからだと言ったら信じるだろうか。

安定を求めるようになった。 壊しつくすまでは止まらないつもりだったのが、もう少しここに未練ができてしまった。
迂闊だったな、そう思っても口は止まらなかった。
「住まないか、一緒に」
幸せを求めていたつもりはない。
でも、お前がいれば幸せだと思えるんだよ、桂。

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11/12
うちには原作では考えられないほどに下手に出る高杉さんがいらっしゃいます。
魅力あるもの。前まではこの国の瓦解だったのが、目的ががうつったって話です。ここで解説するなよ私(笑)
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