12.品の良い嘲笑


いつも通りに笑う彼。

口の端をゆがめて。
決して僕の名前を呼ぼうとせず。
「勇者さんって、やっぱ馬鹿ですねー」

でもどんなに口汚く罵ってこようとも、なぜか下品にまで成り下がってなくて。
不思議な人だった。
最初から。

「ロス」
最初に逢った時そう呼んだ僕を、彼は止めた。
人差し指を僕の唇に押し当てて。
「それは、呼ばないでください。俺もあなたの事を勇者さんと言いますから」」

なんで? と聞いてみてもよかったかもしれない。
でも、その疑問の言葉はその時口をついて出てこなかったのだ。

「お前は、誰なんだ?」
どことなく不思議で。
何かを知ろうとしても雲をつかむようで。
その笑みですべてを交わしていく。

「俺は戦士ですよ?」
「そうじゃない!」
お前は、お前は。
何かを僕に隠していないか?

「お前は本当に、ロスなの?」
「どういう意味です?」
すっと彼は目を細めた。

「戦士、いやロス、お前は何者なんだ?」
「なんだ、勇者さん分かっているじゃないですか」
彼は笑った。
そんなことも分からないのかと、こちらを馬鹿にするような笑みを浮かべて。
「俺は戦士です。王宮から勇者に支給された戦士ロスです。それ以外の何者でもない」

何かを隠している。
それは分かっているのに、尻尾すらつかませない。
いや、もしかしたら何かを隠していることを僕に知られることですら、もう十分彼にとっては尻尾となりうるのだろうか。
それだけでも、知られたくないのだろうか。

「あなたはただ戦士と呼んでくださればいいんです」
「そんなの嫌だ」
何もわからないのは、嫌だ。

「嫌だで全部片付いたら、みんな嫌だと言えばいい。そんな訳には行かないんですよ」
その言葉には確かに重みが有った。
なのに、
「そんなことも分からないんですかー。勇者さんぷぷー、脳みそすかすかー」
いつもよりもキレが無い言葉。
そんなもので騙すことができたと思っているのだろうか。

でも、その笑顔の裏に隠したいものがあるなら、
ここまで行ってもどうしても晒せないものがあるなら、
それは暴くべきではないと、これ以上踏み込むべきではないのかもしれない。

彼がそれを望んでいるなら。
「なに、真剣な顔してるんですかぁ?」
そうやって笑ってごまかすことを望むなら。

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10/06
賢いアルバさんはロスさんが何かを隠していることに最初から気が付いていました…。
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