好きと言いたいよ


自分でも分かってる。
不毛だなとか、馬鹿みたいとか、自虐的に言っても何一つ効果が無かったのだから仕方が無い。

もう二度と人を好きになることなんてないと、そんな風に達観して諦めがついていると思ったのに。
本気で、本当に好きになってしまった。

好きな人には好きな人が居て。
目下四年間の片想い中。一途だよね。
でも告白ししてなくて。
ヘタレだよね。そんなところも愛しちゃってる。
ああ、怖い怖い。

何の見返りもない状況で、それだけ想いが続くなんてすごいよね。
俺には望みが無いワケだ。
まあ、そんな状況で俺も片想い期間一年を突破しているのだけど。

ああ嘘を吐いた。
好きな人が居るからって、それが理由で望みが無いなんてこと言っちゃって。
ああ、怖い。
ねえ、まだ勘違いしてるの?
自分には何一つ望みなんてないんだよ。
望みなんて生易しいものじゃなくて、もう忘れるしかないのに。
だって相手は同性なんだから。

それなのに、そんな恋なのに、前の時よりもずっとずっと
「これで人を好きになるのは最後だ」なんて意識がついてまわって。
諦める事を全力で頑張らなくちゃいけないのが、一世一代、最後にして最大の恋なんておかしい。
不毛すぎる、馬鹿みたい。ばーか、ばか。

だからある意味、全力で恋してるって言えるかもしれない。

「ねえ、佐藤君?」
そう思わない? 何て言っても、通じないのだけど。
分かってる。じゃなくちゃ言って無い。

「なんだよ」
噛みつくような物言い。
ああ、怖い。
そんなところも大好きだよって、平然と言えそうだから。

「いや、俺の分の仕事やってくれないかなーって」
「働けよ」

次言ったらフライパンが来るだろうな、とか、でももっと話したいな、とか。
「轟さんてさ、」
「黙れ」

怒らせては叶わないから、冷凍室に材料を取りに行った。
無くなりかけてたパフェの材料を。
だって、佐藤君が好きな轟さんが大好きな人である店長がみんな食べちゃうんだから。

ああ、そんなこと思っても、何も変わらないのだけど。
佐藤君可哀そう。
ねえ、振り向いてくれない人を想うってつらいよね、でもね、佐藤君は望みがあるじゃない。

多分轟さんは、佐藤君のこと好きになってくれるよ。
分かってるから言わない。

ぐちゃりとした考えのままにいるのは不味いかもしれない。
今更ではあるけれど。
寒いぐらいがちょうどいいのかも。
ちょっとした罰を与えられてる気分だ。

指先がちょっと動かしづらくなった時、もうそろそろいいかなと思って外に出てみると轟さんがいた。
「きょーこさんがね」といつも通りの店長話。
付き合わされてる佐藤君は、何だ休憩時間に入っちゃったのか。
真面目な轟さんが仕事を放り出す訳が無いし、彼女もお休みの時間か。
厨房にいる仕事中は二人きりだけど、今の時間は違う。

ねえ佐藤君。
めんどくさそうな嫌そうな顔だけど、本当は嬉しいんだよね。
だってほら、顔に出てるもの。
そんなことも分かるなんて、ああ。

幸せな顔を見ていられないなんて、ああ。
「ねえ轟さん。店長の新しい写真」
「まあ、相馬くんありがとう。でもいいの? もらっちゃって。約束して無いでしょ?」
「いいのいいの」
邪魔してほしくなかった? そんな顔してる。
だってねえ。いいじゃないの。
「佐藤君」
「あ?」
「いや何でもって、何でフライパン構えるのかな!?」

「うふふふふ、いいわね。みんな仲良しで。ね、佐藤くん。友達って、本当に良いわね」
佐藤君固まってる。
そう、だってお友達、だから仲良し。
この轟さんの鈍さに救われて。
あーあ。本当に俺って佐藤君にとっては要らない部分。ただの用無し。
仲良しって周りから見られるところにいるのが一番心地いいだなんて。

戻れない、でも進む訳が無い。
佐藤君もそこでうだうだしてればいいよって、好きな人の幸せを願ってもいない俺は、本当に要らない子。
佐藤君以上に、告白なんてものをしたら崩れてしまうもの。
音を立てて、壊れてしまう。

あはは、好きだよ。

――言わないけどね。

・→二話贈り物をしたいよ
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あとがき
相馬さんが、後ろ向き。
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