キスだけなら


いつも通りに出てくる魔物Lv.1
そしてそれに苦戦する僕、勇者アルバ。

「ふんぬぅううう!!」

そしてそれを罵る戦士ロス。
「勇者さんダッサぁ、そんなのも倒せないんですかぁ?」

なあ、知ってるか?
僕、コイツが好きなんだぜ。

「気が散るよ! さっきから、僕の周りで剣を振り回さないで」
「あっ」

ぶっしゃぁああああっっ!!
と音を立てて飛び散る魔物の残骸。
べちょりと音を立てて頭にくっついた。

「剣圧で倒しちゃいました」
「って、えぇ!? なにやってんの!?」
「勇者さんが戦っている退屈な時間の暇つぶしで倒しちゃいました」

「いやいやその前に戦士それ僕の周りで振り回してたよね、
 その剣圧の行く先がちょっとぶれてたら僕も倒されてたよね」

「なんですか、自覚あったんですか? 自分があのLv.1の魔物と同レベルだと」
弱いって知ってたんですねー。
と憎たらしげな顔をして言う戦士ロス。

もう一回言うぜ。
なあ、知ってるか? 僕、アイツのこと好きなんだぜ。

「まあ、弱いってことを知らないでのうのうと生きている奴らよりは幾分かましですけど」
「本当!?」
やった、ロスに褒められた。
「あれ、ましって、褒められてないよね!?」
「そうですけど、今更気が付いたんですか?」
相変わらず馬鹿ですよねー。
ああ、もう。
どうしたら褒めてくれるんだろう。

もっと強くなって、
もっともっとちゃんと色々なことができるようになって、
もっともっともっと簡単に魔物が倒せるようになって、
もっともっともっともっと“守る”と伝えられるぐらいになったら、
ロスに褒められるようになるかもしれない。
ロスが頼ってくれるようになるかもしれない。

「そんなの夢のまた夢の話だよねー」
「どうしたんですか勇者さん、独り言ですか気持ち悪いですよ」
「旅を続けていくんだからもうちょっと仲良く行かない、ねえ!」
「俺が勇者さんと仲良く? はッ!」
「なんでそんなけんか腰なの、ねえ!?」
こうやって、いつもうまく行かない。

きりりとした顔はやっぱカッコいい。
「勇者さん、あれ、魔物」
それ以降の言葉は聞くことができなかった。


――◆――◆――


勇者さんは弱い。
堪らなく弱い。

折角魔物が来ることを教えてあげたのに、それを確認するまでに吹っ飛ばされる何て。

「許さない」

勇者さんを傷つけるなんて。
それにしてもからかいすぎた。
俺が気が付くのが遅れたから。

「自業、自得か…」
剣をふるえば一撃で相手のHPが半分程に減ったのが分かる。
ちゃんと構えればほとんど瀕死状態まで追い込めたのに、
こっちも気持ちがゆるゆるだったってことか。

必殺技とかはない。
ただただ、普通に剣をふるうだけ。

「…ふぅ」

背後の勇者さんは、打撲で済んでいた。
それで意識を持って行かれるなんて。
「どんだけやられても立ち上がるのが勇者さんじゃないんですか。なに倒れてんですか」
勇者さんの頬を引っ張る。
ふににーといくらやっても、勇者さんは動きそうにもない。

「まったく、俺が運ばなくちゃいけないじゃないですか」
おんぶ、肩に担ぐ。
そんな選択肢の中から、お姫様抱っこになったのは出来心。
「勇者さんが起きないのがいけない」

ああでも、失敗かも知れない。
顔がずっと見えていて、それはとろんと無防備で。
むしろ口の端からよだれとか垂れちゃって。
それを舐めて、掬い取って、口の中に運び込みたい。
舌を絡めて。
口内を蹂躙したい。ギブアップとアルバが言うまで。

取り敢えず第一段階。
零れてる涎を舌で掬い取った。

「ん、ロス…?」


――◆――◆――


目が醒めたらロスが本当にすぐそこにいた。
顔が近い。
しかも、もしかして僕お姫様抱っこされてる…?

「ん、ロス…?」

あああああ!!
うっかりロスとか言っちゃったよ!
あれ、でもお姫様抱っこ?
さらに何でちょっと顔赤いんだろうロス。

「夢かあ」
もしかしてここでもう一回寝たら、夢のまた夢だからロスが頼ってくれるようになったりして。

でも、その前に。

ロスの首に腕を回して、ギリギリまで顔を近づける。
「ろーす」
好きだよ。
四回口をパクパク動かしただけで、声には出さないけど。

夢の中だもん。
もう一回寝る前にキスぐらいはしとかないと。
夢の中のロスだもん。
いつもとは違うから、キスだけなら許してくれそうだ。

目次へ戻る

あとがき
寝ぼけアルバさん。
あとでなにも無かったかのように過ごすロス。それによって騙されるアルバさん。
二人は心の中で本名を言い合っていればいいと思います!
『戦勇。』アニメ2期の「勇者、再会する。」でロスの一瞬嬉しそうな顔が忘れられない! 永久保存版ですわー。
それにしてもなんで私はアルバ“さん”で、“ロス”なんだろう…。
inserted by FC2 system