俺と僕と彼の記憶 09〜12


09

俺は不義の子と呼ばれる存在だった。

見合い結婚の旦那などに全く興味なく、適当なところで知り合った男と不倫し、そして俺ができた。
そう言った行為がその付近になった筈なのに生まれた俺を訝しんで、
母の夫にあたった人は問い詰めた。

そうしたらあっさりと白状したのだ。
母は。
こうして晴れて男の元へ行けると思ったら、男は実は別の女とできていた。
母は遊びだったのだ。

良家の不良娘として育った母は金遣いも荒く、
その前の夫もそこそこ金回りのいい人だったので、大量の金を貢いでいたのだろう。
金が無くなった母は捨てられ、
更に不倫して子供ができて離婚した時
すでに親とは縁が切れていたために行く当てが無くなっていた。

そうして母は誰か男を捕まえて、
その人にいいようにされることによって金を掴んでいくようになった。
俺はただ引っ張りまわされて。
ただ、いつからか、もしくは最初から、母は手を挙げる人だった。

ひどいことをされた後、必ずその鬱憤は俺に回ってきた。
殴られて、蹴られて。

「おい、お前、何をしているんだ」 その時は弁護士の、羊の皮をかぶった狼の家にいた時だったと思う。
俺を殴っているところに、男が帰ってきてしまった。

「おいおい、いい加減にしてくれよ。
 こんなボロボロの子が家から出るところを見られたらまずいことになるだろう」
「出さないから、大丈夫よ」
「万が一があるからさ」
止めてくれるのかと思った。
淡い期待であることは知っていたけれども。

「だから、」
男は自分の吸っていた煙草を俺の腹に押し当てた。
「ぎゃーッ! 熱い、痛いよ!」
「こうやって、見えない所にやらなくちゃ」

その時から、母は俺を殴ることを男の前でするようになった。
一線を越えた母の暴力はエスカレートしていくばかりだった。

その男にも捨てられて。
暫く食べ物が食べれなかった時も、母は日課のように殴り続けた。

これが異常だという感覚はマヒしてしまった。
それでも、痛いという痛覚はいつまでたっても壊れてくれなかった。
だから同時に言葉も出た。
「やめて」
そう言うと、母は笑うのだ。
「やめる訳ないじゃないの」



10

新しい男は大工だった。
日当が少なく、そのことにも母は不満を抱えているようだった。
満足に服だって買えやしないと文句を言っていた。

ある日のこと。部屋の隅で小さくなって寝ていた。
気が付かれないように、そっと。
しかしふと目が醒めてしまったのだ。
煌々とした部屋の明かり。

乱暴に母をテーブルに押し倒した男はそのまま口づけた。
苦しそうにもがくその母の顔を押さえつけて。
しかし途中から苦痛が快感になっていくのが見てわかった。
同情したのだ、うっかりと。

母もいつもひどいことをされているのだと。
そんなことは無かった、こんな気持ちいいことをしていたのだ。

とろりとした表情の母。
服を脱がされるままになって、反対に男のズボンを脱がしにかかっていた。
いきり立っている男の自身を口に含むとそのまま舐め始めた。
恍惚とした表情へと変わっていく男。夢中でむさぼる母。
それはとても厭らしいことだと分かっていて、目が離せなかった。

男は苦しそうに瞼を震わせ、母の顔を引きはがすと、
その瞬間白い液体が先端から出て母の顔を濡らした。
目のあたりについてしまったそれを親指で拭って母は口に含んだ。
「苦いわ」
と言いながら笑ったその姿は妖艶だった。

「何、見てるのよ」
母に気が付かれた。
「まあ、いいじゃねえか。それとも、混ざるかボウズ?」
下品な笑いに嫌悪感を覚える。
「外に行きなさい。邪魔なのよ!」
母に一括されて、外に出た。

寒い冬のことだった。
何故母に言われてすぐに出て言ったのか分からない。
玄関の隅でいつものように丸くなっていたらよかったのだ。
母の見えない所に行けばそれで満足するのだから。

眠いのとおなかがすいたのと寒いのとが混ざって、どうしようもなくなっていた。
空腹はいつものことだが、眠さと寒さは確実に体を蝕んでいく。
こんな外で寝たら、風邪をひく。
ましてや寒くて眠れない。
二つを抑えるために歩いた。

帰れなくなるとまた叱られるので道を覚えて。
真っ直ぐ真っ直ぐと行くと、舗装されていない道路に出た。
一本道。そこの先に何があるのかはっきりとは分からないような距離。
ただ目的が欲しくて、この先に行くのだと決めて歩いた。

あったのは教会だった。
神父さまは言ったのだ。
「珍しい。こんな時間に小さなお客様がいらっしゃった」



11

特に事情も聞かずに、一切れのパンと、すこしぬるいスープと、
それからお御堂を開放して毛布をくれた。
神様の像があるからか、久々に穏やかな気持ちで寝る事が出来た。

次の日帰ると、母はどこに行ったのとも聞かなかった。
ただ学習したのだ。
この子は私が追い出しても死なない程度の場所は確保したと。
一週間ほどで、俺は母が言わなくても夜になると家を空ける子になっていた。

食べ物は辞退したが、毛布とお御堂は有り難く使わせてもらっていた。
一年ほどしたある日、神父さまは言った。
「アーサー。君に言わなければならない大切なことがあります。私は明日からいないのです」
「神父さま、なんでだよ?」
「もう、引退することにしたのですよ。代わり明日からはアルフレッド君が来ます。
 君のことは話しておきますから、心配しなくてもいいですよ。」

次の日、本当に神父さまはいなくて、代わりの眼鏡の青年が来た。
「君がアーサーかい? 俺はアルフレッド、今日からよろしくだぞ!」
アルフレッドの傍にいる時が、
一番心安らぐときになるのは時間がかからなかった。

俺はこの時13歳になっていた。



12

次の男は所謂金持ちと言うもので。
あてがわれた部屋はたいそう立派なものだった。
服も大変良い物だったが、母は相変わらずサンドバッグぐらいにしか俺を見ていなかった。
そのため、そのきれいな部屋にはいる事はほとんどなかった。

教会が閉まっていた夜のことだった。
まだ夏になりきっていない日のことで、外はそこそこに涼しかった。
母の部屋にバルコニーから入ろうとする者がいたのだ。
手出しをして怒られるのは嫌なので見守っていると、母は中からその男を招き入れた。

この家の持ち主のぶくぶくの成金野郎とは明らかに風貌も違った。

その男の使った縄梯子を昇ってバルコニーに出ると中から聞こえるのは母の喘ぎ声。
「ぅあ、あ、それ、い…い、や、だ、しちゃ、ぁあ。も、っと…」
「うるさい口だな」
男は母の口を塞いだ。

教会に行った。
急いで、慌てて。
居ないかもしれないのに必死でドアを叩いて開けてもらった。
「どうしたんだい、アーサー。今日は開けられないって」
「どうしてだよ、アルはいるじゃないかっ!?」
「今朝はいなかったんだよ」
ため息交じりにそう言ったアルフレッドの口を塞いだ。 唇で。

肩を押されて、離される。
「アーサー、なんで…」
驚いたような顔をしたアルフレッド。
「親がやってるのを見たら、どうしようもなくムカムカってきて」

「ねえ、それはどういう気持ち?」
「え、アルフレッド?」
「アーサー、君もお年頃だね。それはムラムラって言って、発情なんだよ」
アルフレッドが指差した先はテントを張っている俺自身がいた。

「な!? これは何だよ!?」
「射精させなくちゃいけない」
こんなこと言っていいのかな、俺。聖職者なんだけど、とアルフレッドが言う。
「白い液体が出る奴か?」
「そう、それをするんだよ」

だから、俺はアルフレッドのズボンをパンツごとそのまま下げて、咥えた。
「アーサー!? 君!」
「ひょうするんやろ?」
「喋らないでよ!」
真っ赤な顔をしたアルフレッドが叫んだが、お構いなしにいつか見た母と同じことをする。

舐めて、吸って、口づけて。
咥えこんで、上下運動させる。
「あー、さーっ!」
アルフレッドの息も絶え絶えな声が聞こえて。
俺も下が痛かった。
でも、アルフレッドの顔が快感に歪んでいるのが見えて。
気持ちいならいいかなと、思う。

ぐいっと離された。
いきなり。
そして、白い液体が顔にかかる。
だから、親指で拭ってわざとらしく舐めた。
母が言っていた通り、とても苦くて、それから青臭く感じた。

「しまった。逆効果……」
頭を抱えるアルフレッドに言った。
「僕のも、どうにかして…」
アルフレッドの目の色が変わったような気がした。

結局俺も、母を笑えないかもしれない。
どうしようもない疼きを前に、そう冷静に考えていた。

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あとがき
アーサーに翻弄されるアルフレッドが好きです。
そのうち薬かなんかで小っちゃくなったアーサーに振り回されるアルフレッドの話を書きます。
宣言しました!(笑)
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