キスをしよう


いつ見ても煙草を吸っている。
確かに奴はヘビースモーカーだ。がしかし、それでもこのところは異常だ。
寝ずの番の俺に差し入れを持ってきた見張り台で、また一本、煙草を吸っている。
俺の視線に気づいてか、奴は言った。

「最近口さびしくてさ。」

体にはワリぃんだけどよ。
吸っていた煙草を途中でもみ消して。
そう、奴は言ったのだ。

「陸に上がってないし、美人を捕まえてキスもできない。」

ああ、始まった。
面倒なことこの上ない。
ナンパ話など聞いても何一つ楽しくない。

「そんな不機嫌そうな顔するなよ。」

この俺が?
何のためにだ?

分からない、と思ったことが顔に出ていたようだ。
奴は楽しそうに喉を鳴らして笑った。

「キス、しようか?」
「は!?」
いきなり何を言い出す。
「お前、正気か?」
「唇がさびしい。から、キスしてくれよ。」

だめだ、こいつアホだ。

まったく目も当てられないと、
瞼を落としため息をつくと、すぐそこに温かい吐息。
驚き目を開いた直後に唇には唇が重なっていた。

飛び退くと、
「どうかしたか?」
と何事もなかったかのように奴は言った。

「キス、しただろ。」 そんな事実があったことを口に出すのも面映ゆくて、
袖で乱暴に唇をこすると心外だとでも言わんばかりの奴がいた。

「あんなのキスじゃねーよ。キスってのはな、」
伸ばしてきた手につかまった。

頭をがっちりと捕まえられて、ちょっとやそっと動いただけじゃ離れてなどくれない。
わずかな抵抗ばかり試みていたら、ぬるりと唇などよりも体温を感じるものが入り込んできた。

「ぅ、ふぁ、ん、はぅ、んぁ。」
とろりとして、絡め取ってくるソレに支配されて、普通より息が続かない。

そんな口の端からこぼれるものでさえ飲み込んでしまうように、
隙間を埋めるようにさらに距離が近づいて、
深く深くと進んでくる。

くちゅりと水音が響く。
頭の中に。

どれほど長い時間が流れたのか分からない。

「くは、ぁ。」
「はぁ、はぁ。」

口から出て行った時に軽く糸を引く口と口。
キスの間中に声を漏らしていたのは俺だけだったが、さすがに息が切れるらしい。
「で、どうだったよ?」
「悪くねえ。」
目を合わせることができないのを誤魔化すように、水面を見つめる。

折角埋めたはずなのに、また煙草を奴は吸いだした。

「ただ、」
「ただ、なんだ?」
「苦かった。」
から。

「煙草なんか吸うなよ。」
「次もしていいってことか? もしかして、気持ち良かったとか?」

好奇心丸出しの質問には沈黙で返す。
そうすると襟口を掴まれて、もう一度キスを落とされた。

「ご希望とあらば何度でもするけど?」
「お前がだろ!」

言い捨てて、見張り台から降りる。

――◆――◆――

「見張り、どうすんだよ。」
言ってみたが、風に紛れて届かないのは分かっている。

当番じゃないけれども、代わってやるぐらいなんてこと無い。
「好きだ。」
簡単に口にできる筈の言葉は、
「相手がアレだからなぁ。」
ため息で誤魔化すしかない。

まさか、許してくれるなんて思わなかった。
「今日のことと言い。」
絶対にあいつは俺の事が好きだと思うんだけどなぁ。

自覚してもらうために、何をすればいいのやら。
「女の子オトすんだったら、考えなくていーんだが。」
こんなに自分が恋で悩むだなんて考えたこともなかった。

「今度はどんな言いがかりをつけて、キスしようか。」

多分奴は何も分かってないけれども。
とびっきり甘いヤツを今度はしてやろう。

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あとがき
サンジ→(←)ゾロのすばらしい作品を読んだので自分も書いてみようかと。
もうちょっと長いモノを書きたいものです。
ゾロがウブになりすぎないように気をつけなければ(笑)
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