フランスからブリティッシュを悪くとらえたような、メイド風エプロンが届いた。
基本的には伝統的な家政婦のエプロンなのだが、フリルが多くレースが多用されている。
そのため本来なら服が汚れないように、
また、汚れても変わりのきくように着ける物の筈なのに、
うっかり汚せない代物になっていた。
ついでにメモも添えてあった。
「坊ちゃん最近アメリカに構ってもらえてないんだって?
これを着て、誘惑すればオチるぜ、きっと。
ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し? ってな。
健闘を祈る! 〜愛しの優しいフランスお兄さんより」
最初見た時は丸めてゴミ箱に叩きつけた。
しかし、どう考えても頭湧いちゃってるこの行動に、わずかなりとも魅力を感じた。
アメリカは現在外交で行き詰っているらしく、毎日帰りが遅い。
対策会議を長くやっているそうだ。
正直家に帰ってくる時間まで惜しいと言ったような、そんな生活をしている。
帰って来るなりご飯を食べればまだいい方で、
大体シャワーを浴びてすぐに寝てしまうのだ。
みんなで集まって会議する場ならばフォローもできようものだが、
地域的な経済協定や戦争のことになると助けようにも、他国が口を出すわけにはいかない。
さらに国の上司から言われていることもあり、
そんな個人の都合だけでどうこうできる問題でははなから無いのだ。
それでも、精神的に参ったような顔をして帰ってくるアメリカが、
どんな風な仕事をしているのか、心配するなと言った方が無理な話だ。
家でぐらい仕事の話は聞きたくないだろうと口には出さなかったが、ずっと気になっている。
そんな気持ちを押しとどめているのだから、
たまに一時間早く帰ってきて夜ご飯を一緒にとるとなった時でも、
会話が食卓から消えてなくなる。
気にしすぎて話が広がらないのだ。
それは本当にどうにかしなければと考えているが、
今のところ妙案は出ていなかった。
口を開けば二言目には仕事のことを言ってしまいそうで。
いくら気遣っていても、聞きたくない話は最初から聞きたくない物なのは変わらず、
あくまで国家の情報であるため、他国にうかうか話すことができないことも多いだろう。
最近は触れあっていない。
そのことにも淋しさを覚える。
前まではことあるごとに口や手が伸びてきた。
すぐにキスをねだられ、ハグは襲来してくる。
そんなのだったのに、おやすみのキスでさえままならないことがある。
アメリカの帰りを待って、それでもアメリカが直ぐに寝てしまった時など、
寝ている額にそっと自分でキスをするだけだ。
朝は早く、遠慮しているのか起こされたことは無い。
それよりも早く起きている時や、物音に起きてしまった時などは、
朝に顔を合わせる事もあるが、
そのときも寝不足が一目でわかるやつれた顔をしていることが多い。
夜帰ってきたときは、朝出かけた時よりも顔色が悪かったりする。
だから、行ってらっしゃいもただいまもキスは無しだ。
ずっと我慢してきた。
一日ぐらいいいだろう。
アメリカが一時間早く帰って来られる日には、ちょっとだけ構ってもらいたい。
その日は早く帰れそうだと連絡が入っていた。
それまでにお風呂も沸かし、オーブンもセットしておいた。
食後のデザートまで作って待っていると、
普段帰ってくる時間から、一時間どころか二時間も早く帰ってきた。
いつも通り疲弊しきっている顔なのは変わらなかったが。
「アメリカ! ご飯にするか? お風呂にするか? それとも、俺、にするか…?」
言っていて最後の方は恥ずかしくなってきたが、ちゃんと言いきれた。
このことを知ったらフランスは大笑いするのだろうなと思うと、
まだされたわけではないのに腹が立って心の中で殴っておいた。
「イギリス、が、いい」
焦燥しきっているような目が、眼鏡越しに見えた。
次の瞬間覆いかぶさるように抱きしめられて、よろけそうになる。
きつくきつく抱きしめられた隙間から何とか出した腕をアメリカの背中に回す。
幼子をあやすように背中をさすれば、安心したように力が緩んだ。
どれだけ時間が経ったのか分からないが、体が離れて行った。
満足したのかと思ったら、口を塞がれた。
すぐに舌が侵入してくる。
こんなのも久しぶりだと委ねていると、一向に止める気配が無い。
いい加減酸素不足で脳がくらくらしてくる。
送られてきた唾液が上手く飲み込めず、生暖かいものが顎を伝って滴り落ちていく。
キスだけで気持ち良くなってきて、足が震えてくる。
胸を叩いても離れてくれない。
獣のように貪られる。
トロトロと意識が溶けていきそうだ。
縋っていた手に力が入らない。
何の衝撃もなかったのにカクンと膝が折れ、片手を掴まれたまま崩れてしまった。
「はぁ、ふ、はぁ、んは、あ…」
呼吸不足で酸欠で。
そんな滲んだ視界で見上げた。
不安そうな目をして、アメリカは見下ろしてきた。
どうした?
言おうとしても、口は呼吸を優先して言葉にならない。
膝の下に腕が入って、ぐいっと持ち上げられる。
「ぅえっ!?」
突然の事に驚くが、そんなことは一切気にせずにアメリカは進んでいく。
向かうはリビングか、その隣の寝室か。
もしかして、「それともおれ?」を本気で実行しようとしているのか。
「ま、まてアメリカ」
アメリカは何も言わない。
こちらが掴まっているのをいいことに、片手でやすやすと扉を開ける。
大きなダブルサイズのベッドに降ろされる。
話を聞こうとしないアメリカを止めなければならない。
上半身を起こそうとすると、手首を掴まれて後ろに押し倒された。
エプロンの後ろの結び目を解かれて、ずらされる。
シャツのボタンに手をかけて、外されていく。
「ちょ、まて、アメリカっ」
二つを残して肌蹴させて、露出したところに吸い付く。
紅い跡が散る。
ちくりと痛みが走る。
それがどんな意味を持つのか分からないが、
余りに必死な顔をしているものでそれ以上に抵抗できなかった。
突然動きが止まった。
胸に顔をうずめてくる。
髪の毛がチクチクと肌に刺さってムズかゆい。
「アメリカ……?」
「イギリス、このまま。ごめん、このままいさせて……」
くしゃりと髪をなでる。
何度も、何度も繰り返す。
アメリカは今度こそ安心したようで、そのまま眠ってしまった。
こうしてみると、幼いころのことを思いだす。
何があったのかはアメリカが話すまで、待てる限りは待とうと思う。
そこに鼻腔をくすぐる焦げた香り。
今日のデザートをオーブンにかけたままで忘れていた。
止めに行ったら起こしてしまうだろうか。
今日はこの分で入りそうにないなと、オーブンの中身はあきらめることにした。
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思ったよりもどんどん長くなっていきます…。
何が原因でしょうかね。