56.真昼の月


手が小さく震えているのが自分でも分かった。
自分ではない砂利を踏みしめている音が聞こえる。
嫌でも後ろからの視線を感じ、それが緊張を高めているのが分かった。

「こんな所まで連れだして、何の用だ」
警戒するのも理解できる。
理解できるどころか、警戒することが正常な判断とも言える。

「ひとつ告白しなくちゃならねェことがあるんでねィ」
「おいおい、またなんかやったのか? 勘弁してくれ…」
俯いてくれていてよかった。
目を見なくて済む。
「俺はどうやらアンタのことが好きみたいです」

「はあ?」
そんな土方さんがこれからあげる筈の素っ頓狂な声を予想して、
覚悟はしているがそれでもやはり聞きたくなくて逃げ出したくなる。
ただ聞いた途端にかえってきてもおかしくないものが、いつまで経っても来ないことに焦れて目を薄く開いた。
土方さんは俯いていた。

これが色々と考えてくれているのだとしたらいたたまれない。
それこそ、ここからいなくなりたい。

言わなくても良かったんじゃないかと今更なことを思ってしまうが、
気が付いてしまったから、知らないふりをするなんて不可能だ。
毎夜ごとに喘ぐ姿が勝手に浮かんで、それを押し倒して滅茶苦茶にする。
それは想像でしかないのに泣きたくなる。
いつか自分がおかしくなって、何かが切れて押し倒してしまって、それで全てが壊れてしまうなんて。

だったらいっそのこと、拒絶されて考えた時に抑える事が出来た方が良いんじゃないかと、
むしろその考えの方こそおかしい気がするのに。

「…それは、本当か?」
「嘘、言うと思ってるんですか?」
「そうだ、よな。こんなことで、嘘つかないよな」
「何が、言いたいんでさァ?」

「ヘタレが、告白してくるなんて思ってこなかったもんだ」

そして、トレードマークたる煙草にいつも通りのセンスのかけらも見当たらないライターで火をつけた。
ゆっくりと吸い込んで、煙と共に言葉を吐き出す。
「こりゃ、明日は雪でも降るんじゃないか?」

「ヘタレって、アンタもでしょう?」
言っていないのに、そんな風にかっこつけて終わらそうとするなんて許す訳が無い。
「答え、まだ聞いてないでさァ」
やっと真っ直ぐ目を見ることが出来た。

「あー、その、それだ、えーっと」
「ちゃんと言ってくれなきゃ分かりやせん」
一歩にじり寄れば、土方さんの足元の砂利が音を立てた。
「す、きだ…」
なんだ、こんな簡単に言ってくれるのだったら、最初からそうしておけばよかった。
もっと早くに言ってしまえばよかったのだ。

「月…?」
俺から目をそらして上を向いた土方さんがぼそりとそう言った。
見ると、まだこんなに明るいのに三日月が青い空に白く取り残されていた。
確かにこんな奇跡の日にふさわしいかもしれない。

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沖土ってこんな雰囲気でよかったですっけ…。
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