両親を九尾に殺されて、火影様は優しかったがそれでも愛情に飢えていた。
愛情に縋らないでいようとは思ったけれども、それは縋れなかったからだ。
本当は誰よりもそうやって生きる事に憧れて。
でも、できなくて諦めていた。
受け身で流されているばかりだと思っていた。
自分は、そうやって流れに逆らわずに生きているものだと。
だから、自分に好意を持ってくれる人のことは無条件で好きになった。
愛情を注いでくれる人の傍に居たかった。
愛に縋り付いていた。
愛を求めていた。
だから、無条件に愛が注がれる場所に身を置こうとしたのだ。
男でも女でも。愛を持っている人を、愛をくれる人を好きになった。
思えば、自分から愛した人などいなかった。
愛されている自覚はあった。でも、自分から愛したのかと問われると疑問が残る。
そんな状態だったから、すぐに相手は離れて行ってしまう。
それに別段疑問は覚えなかったが、酷く虚しかった。
また、空っぽの中で過ごす日々に怯えて、愛に貪欲になって、愛に敏感になって。
その中で、子供と触れ合うことを始めた。
子どもは良い。
愛情をたっぷり受けて育った子供たちは、その愛情を他に向ける事に抵抗が無い。
先生であることで無条件に向けられた愛を一身に受けて、愛されたいという欲望を必死に埋めていた。
そしてナルトに出会ったのだ。
子どもなのに他者に対する愛情を持ち合わせていないような、彼に。
誰かに愛されたいのだ。
でも、自分が九尾の子であるがゆえに愛されない。
仇などは関係ない。
ナルトもまた、九尾に愛を奪われたものなのだ。
初めて自分から愛を渡した。
ナルトはそれ以上の愛を今でも返してくれる。
そして、今目の前にいるはたけカカシと自分は出会ったのだ。
アカデミーで子どもと一緒にいるだけじゃ、決して知り合えなかったようなエリートと。
「俺、イルカ先生の事が好きです」
そして、そして、告白された。
好きだと。
自分はその状況に、うろたえて、何もできないでいる。
「あの、それは、どういう意味ですか?」
「どういうと言われましても。イルカ先生が好き以外に言いようはないんですけど」
誰よりも愛に飢えていて、誰よりも愛に貪欲だったのに。
この人からの愛は、そのまま縋りたいと思わなかった。
そして、何故自分は今までこの人からの愛に気が付かなかったのだろう。
言われて否応なしに気が付いて、そして流れ込んできた。
目の前にいる彼の愛が、洪水のように。
それでもそれには気が付かないふりをする。
愛を持っていても、愛をくれても、この人にはこれまでみたいに縋ってはいけない。
そう、色々とあるのだ。
彼はエリートで、今まで気まぐれであったとしても自分に愛をくれた人とは別物なのだ。
男色は、少なくとも普通ではない。
彼は、エリートなのだ。
自分が今までみたいに縋っては、愛を求めては、そして愛したいと思っては迷惑がかかることになる。
そうしたら、また捨てられて、虚しくなるのだろう。
「それは、人としてですか、恋と言う意味ですか」
「後者ですよ。まぎれもない告白です」
「それは、違いませんか?」
「いいえ、イルカ先生が好きで合っています」
「俺なんかを、好きになるなんておかしくないですか」
まず間違いなく、自分を好きになるなんて、彼にとっては道を踏み外すことになる。
「俺は、イルカ先生が好きなんですよ。自分に、なんかなんて使うな」
「それは、勘違いじゃないですか」
「勘違いじゃないよ。それとも、俺が恋してるかどうかアンタに決められなくちゃなんないの?」
見えている右目がこちらをじっとみてくる。
「俺を好きになっても何もいいことなんてないですよ。俺はあなたの邪魔になるだけだ」
「そんなに嫌? 俺がアンタを好きになっちゃいけないの?」
「そんな、そんな話をしているんじゃないです」
邪魔になってしまうようなことはしない。
でも今までは、愛をもらったらそのまま身をゆだねていたのに。
人に逆らわないで、ただ流されて、受け身で、愛されたら思うがままに愛でられる。
なのに、なんで必死に俺はこの人に逆らっているんだろう。
愛されるということを、今まで必死に望んでいたことを、今度は必死に拒んでいる。
何で、そんなことをしているのだろう。
「イルカ、せんせ…?」
なんでそんな不思議そうな顔をするのだろう。
なんで、こんなに視界がぼやけているのだろう。
これは、頬に流れる温かい雫は何だろう。
「どうしたんですか? 俺は、何かしましたか? すみません…」
「違うん、です。カカ、シ、さんは、、何も、悪くない…」
「どうしたんですか」
そうやって心配してくれる目の前の人を、俺は今必死で心配してる。
何で泣いているんだろう。
どうして、心配しているんだろう。
愛をもらえればいいじゃないかって、思っていたのに。
迷惑になるって、邪魔になるって考えている。
そして、邪魔になりたくないとも思っている。
「あなたを、失いたくないんです」
俺は、あなたを愛したいです。
「愛されたいんです、あなたに。俺はやっぱり、あなたに愛されたい」
それは確かな言葉になって、口に出した途端に現実味を持って、心に収まった。
「愛し方が分からないんです、でもそれ以上に、あなたの邪魔になりたくないんです。
誰かの愛に縋ってきました。そうやって俺は生きてきました。醜くも生きてきました。
ずっと、愛をくれる人に、その愛に縋ってきました。愛されたらそれに流されてきました。
でもあなたに対しては、言われたときにすぐに愛に縋りたいとは思わなかったんです。
あなたはエリートだから、あなたの邪魔になりたくないと思いました。
俺は愛し方が分かりません。そうやってこれまで生きてきました。
でも、これは愛だと思うんです。だけど、俺にはわかりません。
あなたは俺を好きだと言った。
じゃあ俺は、そんなあなたの愛に縋っていいですか?」
「もちろんです」
カカシさんはそう言って、まだ頬に残ったままの涙を掬い取ってくれた。
「なんで、泣いてるんですか?」
「気にしないでください」
そう言って笑ったものだから、ギリギリでとどまっていた雫がカカシさんの頬を伝っていった。
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カカイル二つ目です。