53.空に向かって


恋愛感情が甘く苦しく切ないものだったら。
この思いは、恋なのだろう。

人を好きになるってなんだろうなと、最近考えてしまう。
ロスは好きだ。それは前までもそうだし、これからもそうだと思える。
でも、最近何かが違っているのだ。

好きだって、前までなら言えたかもしれない。でも、今は言えない。
何故か言葉がつかえて、出てこようとしない。
恥ずかしさを感じるようなことではないのに。
誰かを守りたいと、誰かの為になりたいと、そうして誰かを好きだと言うのは何も躊躇うことではないのに。

恋って言葉を不意に思い出した。
それ以来自分がどんどんおかしくなって行っている気がする。
最初は、やたらと心拍数が多くなった。気のせいかもしれないと思っていたが、触れられたりすると特に駄目だ。
それもロスが相手の時だけ。
他の人に、それこそ町であった子供とかに手を引かれても何も思わないのに。
次に、目が合わせられなくなった。
横顔を盗み見た時に気が付かれて、でも目を見れなくて、慌てて逸らしたのだ。
傷つけているかも知れない。
とても好きとは言えないけれど、確かに好きなのに。
理由も分からず避けているようにロスには見えるだろう。

だって、好きってなんだろう。
前までは好きって面と向かって言えたのに、今は近くに寄るのですら、目を合わせるのすら、ましてや触れるなんてできない。
これが好きだって言うのならば、どんどん遠くなってしまっている。
これは、何なんだろう。

多分、恋と言われるものなのだろう。
でも、こんな風になってしまうんだったら。
前までみたいに一緒に居られないのなら、恋だなんて認めたくないというのは我がままだろうか。

考えすぎだ。
でも、考えないようにしても、もうロスを見たらいつの間にか考えている。
好きだ、って。何でこんなに遠いんだろう。

気持ちの整理なんてもちろんついていないけれども、好きだって言ってみたらロスはどんな顔をするのか。
ああ、好きだ。
じゃあこれは恋なのか。
分からないけど、好きだ。
ああもう、好きってなんだろう。

考えすぎて、目が醒めている間はずっとそれを考えていて。
やっと寝られたと思っても夢でまた見て、夢でもやっぱり触れられなくて飛び起きて。
もう考えないようにしようと思ってもそんなことできる訳が無かった。

――◆――◆――

歩いて歩いてい歩いて、いつものように旅は続く。
基本的に移動手段は徒歩しかないのだ。仕方が無い。
一歩ずつ踏みしめているけれども、なぜか体がフワフワしているみたいで。
頭痛もしていたが前に進むしかない。
ロスは前に進んでいるのだ、前に前に。

体が斜めに傾いているような気がする。
いや、まっすぐに歩いている筈なのに歩いていないような。
ロスとの間が一歩どころじゃなくて、三歩になって、十歩になって。
まって、と言おうと思ったところでロスが振り向いた。
「早くしてくださいよ、勇者さん」
「うん、分かってる」
でもね、ちょっとまって、なぜか今歩けそうにないんだ。
そう言おうとしたのにロスの目を見たら、また逸らしてしまう。
頭を動かして避けたら、そこに引っ張られるように、体が傾いた。

「勇者さん!!」
ロスが駆け寄ってくる。
ああでも触れられたらまた過剰に反応してしまうのだろうな。そんなの嫌だな。
「勇者、さん…?」
だめだ、目を開けていると気持ち悪くなる。
何でこんなことになっているのだろう、いよいよ考えすぎておかしくなったのか。
でも考えてみたら、最近よく寝ていない。
ただの体調不良だから大丈夫だよ。そう、言おうと思った。
でも、視界に映るロスの心配そうな顔を見て、分かった。
やっぱり、ロスが好きだ。

叫んでやった、仰向けのままで。
「好きだーっ!!!」
揺れていた視界が急にはっきりした。
まだ少し頭痛はするけれど、さっきまでのは何だったのだろうと思わせるほどの回復。
これで正解かな。

ロスはと言えば、唖然とした顔で覗き込んできて。
口の端でにやりと笑って、唇が触れた。
真っ赤になって口をパクパクさせてると、
「俺もですよ」
って笑ってくれた。
暗くて見えずらかったけれども
「もしかして、赤くなってる?」
「勇者さんもじゃないですか…」
拗ねたようなのが可愛いかった。怒られるだろうから言わないけど。
「ロス、アルバって言ってよ」
「な、」
目のあたりを手で隠してしまった。
「可愛すぎますよ」
呟いた言葉にまた赤くなって、折角なんかロスがやられている所が見れたのになって、ちょっと悔しく思う。

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受け攻めがフワフワしてる。ちょっとずつでもいいから書いていこうとしたから、文章もフワフワしてる。作中ではアルバさんもフワフワしてるね。
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