51.世界の果て


世界が幸せじゃないと何とか種島さんが山田さんに話していた。
恐らく学校の先生の受け売りだろう。そんな分かりやすいところは嫌いじゃない。

「相馬さんはどう思いますか?」
山田さん、いいところで俺を見つけたみたいな顔しないで、話を俺に振らないで。
「んー、みんなが幸せになんてなれないかもしれないよ?」
種島さんはショックを受けているみたいだった。
「なんで!?」
そこそこ頭のいいところに行っている見たいだけで、こういうところはお子様だ。
甘々の、だるだるの、ゆるゆるの。

「例えばさ、ある国――Aの国はその年とっても不作で食べる物に困っていたとするでしょ?」
ふんふんと大人しく頷いている。
ここまでは理解してくれているみたいだ。
「でも、隣の国――Bの国ではそんなことは無く、普通に作物が取れて、その年も普通に食べる物があった。
 で、Aの国はBの国に言うわけだ。下さいって。
 でもね、Bの国だって別に余裕がある訳じゃ無いんだ。普通に取れただけでちょうどぴったりで渡す訳には行かない。
 そうしたらAの国はみんなが食べる物を確保するために仕方なくBの国を襲うしかないんだよ。
 でも渡すわけにいかないのはBの国も同じだから、対抗する。
 これでもう戦争が起きちゃうんだよ。どっちも食べ物が無いってだけで」
「それはBの国が、最初に分けてあげればよかったんじゃないの?」
種島さんはあくまでも平和的解決をしたいみたいだ。

「じゃあさ、俺が種島さんにここでアメをあげるでしょ」
丁度コックエプロンのポケットにアメがあったので種島さんに握らせる。
「でも山田さんが隣からそれ欲しいっていきなり言ってきたら、種島さんは素直に渡せる?」
「んー、それはちょっと、考えちゃう、カモ…」
「え、山田貰えないんですか! ショックです!」
騒ぎ出しそうな山田さんの口にはとりあえず別のアメを放り込んだ。これでしばらくは大人しくなるはずだ。

「種島さんでさえそうなんだよ。
 それが大人同士、ましてや国同士になったらもっとこじれると思わない?」
「大人って嫌れすね」
口の中でアメを転がしながら、くぐもった声で山田さんはそう言った。
そんな風にまとめないでよ。と文句を言おうと思った時。
「れも、分かった気がします。自分の好きな人ら、自分やないその人の好きな人と付き合ったら、
 それはその人にとっては幸せれすけど、自分にとっては不幸せれすからね」
嫌なこと言わないでよ。
山田さんは全部分かってるってことは前から知ってるから。

種島さんはめげなかった。
「好きな人の幸せが、自分の幸せには成れないのかな…?」
「それは、とっても難しいですよ」
山田さんは種島さんに諭すみたいな口調でもあったけれど、言い訳のように聞こえた。
「つらいですよ。本当にそうなんて、思えないです。それが好きな人にとって一番でも笑っている事なんてできないですよ。
 だからそれでも笑うためにいっぱい言い訳して、嘘ついて。山田、少しお姉さんなので分かります」
「え、葵ちゃんいつの間に!?」
本気で驚いている種島さんは、本当に意味を理解しているのか分からなかったが、
二人はこのままにしておいていいだろうとその場を離れた。
いや、俺が逃げたかったって方が正しいかもしれない。

店長を轟さんは好きで、その轟さんを佐藤君が好きで、その佐藤君を俺が好きで、そんな俺の事を山田さんは好き。
誰の好きな人も報われなくて、誰の好きな人も幸せじゃなくて。
一方通行で負の連鎖。まさに鎖のようにまとわりついて、連なって、いつまでも離れない。

この世界の全員が幸せなのが一番だとしたら、誰も幸せじゃないここが世界の果て。

目次へ戻る

11/23
相←山が前提の佐←相だったのに、佐藤君出てこないし…。
inserted by FC2 system