43.蝉時雨

「よぉチャイナ」
「チッ」
背中を取られて悔しそうに舌打ちした。
失敗したとでもいうように。
これなら、ちゃんと最後まで言えそうだ。

「何アルカ?」
こちらに後ろを向けたまま、そう返事をしてきた。
「どうしても言いたい事があるんでィ」
「…ふん」
ご機嫌ナナメなようだ。
でも、けんか腰ぐらいでないと、いつも通りぐらいでないと言えない。

「この星を離れる」
「…ハ!?」
振り返りそうになったところを首筋に刀を当てて押しとどめた。
「振り向くんじゃねェ」
「―――ッ」
チャイナの肩が小さく震えた。
「…なんで、アルカ?」
「上からの、命令でねィ」
今度ばかりは逆らえねェ。土方さんにだったらいくらでも押し付けられるのに。

「ちがうアル。そうじゃないアル。なんで、私に言ったネ」
今度はこっちが絶句する番だった。蝉が一際高く鳴く。
「もう二度と、戻ってこれないかもしれねェ」
無理やりだとしても、言わないで済むと思ってはぐらかした。話題をそらした。
「もう二度と、会えないかもしれない、だから」
「――きこえないアル!!」
叫びは木の間に、蝉の絶叫に飲み込まれていく。
「ちがうダロ! 言えヨ、私が好きだったって!」
チャイナは振り返って自分に向けられた“鞘のついたまま”の刀を薙ぎ払った。
「なめんじゃねーヨ。神楽サマを」

目があった。
しっかりと、絡めとられるような。
心の底まで見抜かれていそうな。

「なァ、それは、ただ帰ってこられないってことカ? それとも…」
その先は言葉にしなくても分かる。
「なんだヨ、なんだヨ…。おいていくつもりだったのカ? 死ぬんじゃねーヨ」
かき消すような蝉の声。
「あァ。気が変わった。待っていて、くれるんだって?」
ならば、無理でも無茶でも無謀でも、やってやらァ。
「言わなくても、わかれヨ」

胸を軽く押された。
「行ってくる」
「待ってる」
「必ず、帰ってくる」
「待ってるネ」
「そうしたら、結婚してくれるかィ?」
「やめろヨ、死亡フラグね。返事は、帰ってきたときにするアル」
「…そうかィ。じゃあな」
チャイナに背中を向けて手を振った。

目次へ戻る

11/17
沖神です。蝉時雨なのにそんなに蝉が出ていないです。さらりとプロポーズしてますけど、沖田さん半ば断られて悶えていると思います。遠征に行く前なのに大変ね。
inserted by FC2 system