「チッ」
背中を取られて悔しそうに舌打ちした。
失敗したとでもいうように。
これなら、ちゃんと最後まで言えそうだ。
「何アルカ?」
こちらに後ろを向けたまま、そう返事をしてきた。
「どうしても言いたい事があるんでィ」
「…ふん」
ご機嫌ナナメなようだ。
でも、けんか腰ぐらいでないと、いつも通りぐらいでないと言えない。
「この星を離れる」
「…ハ!?」
振り返りそうになったところを首筋に刀を当てて押しとどめた。
「振り向くんじゃねェ」
「―――ッ」
チャイナの肩が小さく震えた。
「…なんで、アルカ?」
「上からの、命令でねィ」
今度ばかりは逆らえねェ。土方さんにだったらいくらでも押し付けられるのに。
「ちがうアル。そうじゃないアル。なんで、私に言ったネ」
今度はこっちが絶句する番だった。蝉が一際高く鳴く。
「もう二度と、戻ってこれないかもしれねェ」
無理やりだとしても、言わないで済むと思ってはぐらかした。話題をそらした。
「もう二度と、会えないかもしれない、だから」
「――きこえないアル!!」
叫びは木の間に、蝉の絶叫に飲み込まれていく。
「ちがうダロ! 言えヨ、私が好きだったって!」
チャイナは振り返って自分に向けられた“鞘のついたまま”の刀を薙ぎ払った。
「なめんじゃねーヨ。神楽サマを」
目があった。
しっかりと、絡めとられるような。
心の底まで見抜かれていそうな。
「なァ、それは、ただ帰ってこられないってことカ? それとも…」
その先は言葉にしなくても分かる。
「なんだヨ、なんだヨ…。おいていくつもりだったのカ? 死ぬんじゃねーヨ」
かき消すような蝉の声。
「あァ。気が変わった。待っていて、くれるんだって?」
ならば、無理でも無茶でも無謀でも、やってやらァ。
「言わなくても、わかれヨ」
胸を軽く押された。
「行ってくる」
「待ってる」
「必ず、帰ってくる」
「待ってるネ」
「そうしたら、結婚してくれるかィ?」
「やめろヨ、死亡フラグね。返事は、帰ってきたときにするアル」
「…そうかィ。じゃあな」
チャイナに背中を向けて手を振った。
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沖神です。蝉時雨なのにそんなに蝉が出ていないです。さらりとプロポーズしてますけど、沖田さん半ば断られて悶えていると思います。遠征に行く前なのに大変ね。