「今日とか、どうです?」
「あ、はい、大丈夫です」
「じゃあ、待ってますから」
そんな会話の後。
同僚の中忍から脇腹を小突かれた。
「お前、はたけ上忍と飲みに行くのかよ」
「あ、まあな」
「いいなー。はたけ上忍ってったらアレじゃん。そんなスーパーエリートといつの間に昵懇になってたんだよ」
「ほら、ナルトの上司だからさ」
「ラッキーだったなあ、お前」
まあ、ナルトにあそこまでなつかれるのはお前にしかできないだろうけどさ。
聞きようによってはとてつもなく口の悪い同僚だったが、それはただ単なる憧れから来ているものだろう。
はたけカカシに対する。
飲みに行くなんて生易しい者じゃないんだけどなぁ。
でも、身に染みていることを言われてしまった。
その通りなのだ。
ついうっかり反応してしまいそうになった。
ラッキーだった。
運がよかった。
それだけなのだ。
カカシさんにとっては、ただ近くに居ただけなのだ。
いい加減。
もう、いい加減。
疲れたんだ、なんて言ったらそれはおかしいだろうか。
「イルカせんせ」
店の奥からこちらに呼びかける朗らかな声が聞こえた。
もう既にお酒を飲んでいるのだろう。
口宛と額宛ての隙間から見える肌の血色がよくなっている。
店内の気温が高いというのも少なからず影響しているだろうが。
「遅かったじゃないですか。受付終わった時に有った筈なのに」
「いや、ちょっと」
悩んでたんですよ。
言うべきかどうか。
とは、言わない。
「取り敢えず飲んじゃってください。じゃないとどうしようもないでしょう」
それはどういう意味だろう。
ただ余っていたものを飲んで欲しかっただけだろうか。
それとも、酔っぱらわないとやっていられないという事だろうか。
どちらにせよ酷いが、後者はもっと酷い。
言うべきことは決まってる。のど元まで来ている言葉の滑りを良くするために酒を流し込んだ。
「すきっ腹にお酒はよくなーいよ」
こちら側にイカ焼きが移動してきた。
自分がお酒に強くないのは知っている。
口が回らなくなっても困るので箸でつまんで口の中に入れた。
ゴムみたいだ。お酒も同じで味はない。
「飲み終わりました? いきますか」
むき身の札を握り締めて、多分お釣りはもらわないつもりなのだろう。
カカシはそうして立ち上がろうとしたが、手首をつかんで引き戻した。
「どうかしましたか? イルカ先生」
「やめにしませんか。コレ」
「何でですか?」
互いの利害は一致した筈でしょう?
当たり前のようにカカシは言った。
最初は一方的に押し倒された。
お酒を飲んで、いいや飲まれたと言っていいほど飲んでしまってロクな抵抗もできなかったのだ。
終わった後に知ったぐらいの感覚だった。
でも、ちゃんと感触は残っていて。
「いいじゃないですか」
と言ってきたカカシを振り払えなかったのは、好きだったから。
今まではうまく抑えているつもりだったんだけどな、と今更ため息をついても遅い。
抱かれてから、どうにも上手くコントロールできなくなってきているのは自分でも分かった。
もうそろそろ終わりだなと思っていったいどれだけ過ぎたのだろう。
何週間、何か月。
最初にああやって手が伸びてきたのは、俺がたまたまそこにいたからなんでしょうカカシさん。
ラッキーだったなんて知っている。
カカシさんにとって計算外だったのは、俺があなたに恋心を抱いていることだ。
「やめましょう。これは、正しくない」
「あなたは正しい事しかしないんですか」
「そんなことは無いですけど、でも理由の一つになるとは思います」
「じゃあ他の納得できる理由を言って下さい」
あなたを手放すのは惜しい。
そんなことを言ってくる。
その言葉が痛い。
だって、その言葉を受けているのだってラッキーなんだ。
ラッキーだって割り切れなくなってしまった俺は、あなたにとって要らない人にしかならない。
「もう、嫌なんですよ」
「何がですか。俺に抱かれることがですか」
「はいそうです」
「あんなに善がってるのに? 信じられないな」
「別に信じなくていいです」
カカシは手をねじって手の拘束を解いた。
反対にこちらの手首を掴んで、引き寄せられた。
「アンタまだなんか隠してない?」
「…ない、です」
「そういうのはもっと嘘が上手になってから言うんだね」
ちょっとやそっとの抵抗じゃほどけない。
強引に連れ攫われて、引きずられるように歩く。
そんな中で泣きそうになる。
外に出る時はあくまで友達同士のようにというのがこれまでで。それはそうだ、だって恋人でもなんでもないのだから。
でも今は、ちょっと遠くから見たら手をつないでいるように見える。
それが少しでも嬉しいだなんて。いよいよ末期だ。
こんな俺、カカシさんは要らないだろうに。
人影のないところまで来てから、壁に押し付けられる。
「なんでいきなり言い出したわけ?」
「いきなりじゃないです」
前から言おうと思っていた。
自分の中で先送りにしてしまっただけなのだ。
「いいなよ。それとも、言わせてほしい?」
「だって、それは」
あなたにとって言ってほしくないことの筈だ。
何て言うと、唇を塞がれた。
言いきれたか、伝わったかどうか分からないぐらいのタイミングで。
「それは俺が決める事だ」
じゃあ言ってもいいんですか。
「好きなんですよ、あなたのこと」
ほら、そんな顔をする。
体だけでもいいって最初は思ったんですけどね。
夢を見させてくれたことに感謝はしていますよ。
逃げ出そうとしても、壁に押し付けられたまま体が動かなかった。
なんで、放してくれないんですか。
睨む。涙目になっていないだろうか。
「いいですよ、別に」
素っ気なく、そう言ってきた。
なんだよ、なんなんだよ、その言い方は。
ふざけるなよ。
「愛してるんです。そんなもんじゃないんだよ、バッキャロー!」
ああ、なんてみっともない。
こうやっていつかは晒すだろうなって、この人に迷惑かけるだろうなって思ったのに。
いや、自分が耐えられなかったというのが一番大きいけれど。
「頑なに、俺を抱きしめようとしないその腕が、背中に回ればいいななんて考えていたって言ったら、
それはあんたの気持ちの肯定になりませんかね」
穏やかに、落ち着いて。
そう目で言われているようだ。
「俺には分からないです、誰かを好きだとかそう言う感情」
でもこんなに執着したのは、あんたが初めてなんです。
つい、目をそらした。
「欲望だけだと思っていたんです。でも、違うんでしょう? あんたが欲しいってこの気持ちは」
教えてくださいなんて言いません。
自分で見つけますから。
だから、その時間を下さい。
カカシは口づけてきた。
それを拒まなかったことだけで、想いは伝わっただろうか。
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カカイルをついに書いちゃいました。本編はまだ10巻までしか読んでいないんですけどね!
友達に早く貸してとせがまなくては。