36.極彩色


単行本11巻該当内容山田さんの過去編、微妙にネタバレな気がする。


山田さんは相変わらずだ。
「ドロドロのグログロな話を山田にください!」
「そんなのないよ…」

仕事をサボっては厨房に来て、話をしてまた出て行く。
俺の元に――何て言うのは非常に自意識過剰ではあるけれども。
正確な目当ては俺ではなくて、俺の話なのだけれど。

「相馬さんならそんな経験のみっつやよっつ、ありませんか」
「そんなこと無いよ」
「いや、10から20あるんじゃないですか!」
「そんなこと無いよ」
「じゃあ50ほど!」
「山田さん。この場合の“そんなこと無いよ”は、謙遜じゃないからね?」
数が足りないだなんて主張はしていないのに、なんでそんなに跳ねあがっていくのか。

「けんそん?」
なんですかそれ、美味しいんですか?
小首をかしげながら、店長のように食べ物と結び付けてそう疑問を口にした。
そう思って言っていた訳じゃ無かったのか。恐ろしい子…。
「山田、相馬さんにはそのぐらいの可能性があると信じてます!」
「信じてほしくないねー」

だって、そんなもの。経験するようなものじゃないから。

「山田さん、おうちの事はいいの?」
「なんのことですか?」
山田そんなの知りません。
俺は知っている、山田さんはまた家を飛び出してきたのだ。今度は山田君と喧嘩して。
だから今はこれまでのように屋根裏にいる。
でも山田さんにとっての暗い話は、その程度だ。

決して、知ったら再び日の目を見ることができないような話ではない。
ひと一人の人生を、そこだけで歪めてしまうようなものでは無い。
世の中にはそんな話はごまんと溢れている。

「相馬さん…?」
追求しなかった俺に疑問を覚えたのだろう。
「お兄さんと和解しなくちゃだめだよ」
「お兄さん? いませんよ、山田には。大体今回は、アレが賞味期限が過ぎた納豆を捨てるから!
 発酵食品だからちょっと過ぎても大丈夫なのに最後のひとパックをっ…!
 山田の朝の楽しみを奪ったんです。許せますか!?」
許すも何も、別に俺は朝ごはんはパン派だからなあ。
そんな的外れの事を考えてみる。

朝ごはんに憤るだなんて。
こちらは今朝は食欲が出ずに、8枚切りの食パン一枚だったというのに。
キラキラして、眩しいぐらいだ。
いや実際に眩しい。
どんよりと曇ったこちら側からは見えない。
明るい明るいものみたいだ。

山田さんの近くに居る事で、自分も近づいていたらいいのだけれど。
ドロドロのグログロなんて、話で聞くほど面白いものじゃないから。
君はいつまでもそこに居ればいいのに。

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11/05
ここにきて相山。いえーい。
ついうっかり自分がノマカプも書く人だったという事を忘れてしまいそうで仕方が無い。
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