35.大聖堂の主


隣町には観光スポットしても名高い大聖堂がある。
親に付き合わされる日曜礼拝はキライだが、そこで見るステンドグラスは綺麗だ。
今日もそこには、祈りの声が響いている。
でも、その中には入らない。
「やあ、カミサマ」
「よく来たね」

三か月前の事。彼は僕の目の前に現れた。
親に付いてきたつまらない日曜礼拝。
大聖堂の屋根の上に人影が見えた。でも誰にも言わなかった。
こんな馬鹿らしいこと言っても信じないだろうし、それに本当だとしたらこんなに素敵なことは独り占めにしたかった。

帰り道の事。
確かめたかった。本当かどうか。

両親は日曜礼拝に来るぐらいは熱心だったが、厳格なと言われるほどではない。
だから、帰りに寄り道して帰っていいかと尋ねるとあっさりと了承がもらえた。
でも屋根の上に人影はなかった。
目の前にあったのだ。
「さっき目があった人だよね?」
驚いて飛び退った。
「やっぱり。初めまして、僕は神様です」

意味が分からなかった。

「カミサマ?」
「そう、認められていない神様。だってここに祭られているのは一神教だからね。
 僕はこの大聖堂が建てられたときにできた、守り神さ」
重力を無視して動く彼。
でも、触れた。
「あれ、僕に触れられるの?」
彼も不思議そうだった。
「見ただけで幽霊と間違える人ならいたのに。これじゃあ僕は本当のニンゲンみたいだ」
以来、日曜礼拝以外にも足しげくここに通うようになった。

そしてほぼ三か月が経った今日という日。
「ねえ、僕はさ。君のことが好きなんだけど」
神様は唐突に告白してきた。
「僕もだよ」
「へえ、それはいいことだ」
告白してきたのに、それに対して返事をしたのに。淡泊な対応だった。

「カミサマ?」
「いやだって、これで君ともお別れかも知れない」
「…え、なんで?」
いや、だって。
カミサマが好きだと今僕は言ったばかりなのに。

「いや、本当は僕が言うべきじゃなかったんだろうね。だってさ、君を好きになることは罪だったもの」
いや、なんで。
分からない。
「僕は認められていない守り神だよ。でも、君たちが信じているのはこの神様だ。
 彼らの教義では、男色はそれだけで罪なんだ」
男色という言葉が耳に覚えのない響きだったから変換に時間がかかった。
そんなことは知っている。

「だから僕が逃げ出すとでも? だったらあなたの言葉に応えなんかしない」
「昔僕には愛した人が居たんだ。なんだろうね、見えるのは男の人と相場が決まってるのかもしれないね。
 もちろん男だったさ。彼は僕に触れることはできなかったけど。
 彼も僕の事を好きになっていると思ったから。僕は…」

「へえ」
でもね、と続ける。
「その彼と違って僕は、君のためなら罪を犯したって構わない」

「彼もそう言ってくれたさ。でもね、彼はそのせいで除籍されて。もう二度と会えなくなっちゃった」
えへへ、と神様は笑った。
「君がココを追い出されないように、と思ったんだけど」
「要らない心配だよ。大丈夫、僕は信じてないからさ」
「神様を? じゃあ僕のことも信じてくれないかい?」
「まさか」

触れても人間とは違うところがある。
カミサマは気が付いているのだろうか。
――体温が無い。
まるで、砂の詰まった袋を抱きしめているみたいな。

人間的なことを心配するのだなと思った。
でもやっぱり、カミサマだ。

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11/04
宗教についてはうかうかと書いてしまってはいけないので少しぼかしました。
男同士だけでなく女同士でもアウトだった気がするのですが…。うろ覚え。
まあ、許容しているところの方が少ないというか…。日本でも実質否定してますしね。
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