33.チクリチクリと刺すように


「嘘でも言っちゃあダメだったんだよ」
俺の言葉を聞いて相馬は残念そうにそう言った。

――◆――◆――

ため息。
タバコの白い煙と共に吐き出したものは深く沈んだ。

「佐藤君、ダメだよため息なんてついてちゃ。幸せが逃げるよ?」
ニコニコ顔で近づいてきた。幸せ、ね。
「あ、轟さんがさっき佐藤君の事を探してたよ。言ってあげな?」

「そうか。ありがとう」
目を見て言ってやっても。
「いえいえ、どういたしまして」
などと返ってくるばかり。俺は何をしているのだろうな。

逃げるように八千代の元に向かった。
「八千代」
「あら佐藤君、どうしてここに?」
「相馬から聞いた」
「そう? 別に急いでいた訳じゃ無いのだけれど、杏子さんがチャーハン食べたいって言うから、作ってほしいの」
相馬め、余計なことしやがって。
「チッ」
「轟さん、佐藤君にも都合があるんじゃないかな」
いつの間にか現れた相馬。
「あ、ごめんなさい。佐藤君なにか用事があったらいいのよ」
「いや、別に何も。…今やる」
「ありがとうね」

ふわふわと笑って。
そしていなくなった。

と同時に、相馬の方を睨む。
「何やってんだよ、テメェ」
「ねえ、佐藤君聞いた? 今の。店長よりも、君を優先させたよ。よかったねぇ」
「どういうつもりだ?」

「どういうつもりって?」
「とぼけるな」
不自然すぎるまでの態度。
距離を置いているんだと、まるで周りにアピールするような。
「俺は、佐藤君と轟さんが幸せになればいいなって思ってるんだけど?」
「いい加減にしろよ!」

だって、好きなんだ。
好きなんだよ。

「なにが?」
「俺が好き
「なのは――誰だって言いたいの?」
台詞の後半を引き受けるように、そんなことを言う。

「轟さん、でしょう?」
「なぜ?」
そんなにも俺を拒む。
「なぜって? 俺こそ、なぜ? だよ。佐藤君」
冷たい目。
抉られているような気がする。

「そのままでいれば幸せだったのにね」
なんで、そんなことを言う。
俺が好きなのはお前なのに。
むしろ、お前じゃなくちゃダメなのに。

幸せって、何なんだよ。

へらへらと相馬は笑った。
「佐藤君だって苦しいことはキライだろ。俺だって嫌だもの」
だから、君がそんな気持ちである以上。此処で離れておくべきなんだ。

それははっきりとした拒絶の言葉。
「相馬…」
前までみたいに手を伸ばしても、ぴしゃりと叩かれた。
「佐藤君、終わりだよ」

「好き、だ」
「それは轟さんに言うべきじゃないの?」
手を伸ばせばそこにいる筈なのに。
その距離に開いた手を力なく閉じるだけしかできなくて。

好きだ好きだ好きだ。
好きなんだ。
愛してるんだ。
それを全て否定するように、上塗りされる相馬の言葉。

ああ、痛い。
好きだから、痛いんだ。

…好きなんだよ。

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11/02
またほとんど出てこないセフレ設定です。
無理やり終わらせるような終わり方をさせてしまって申し訳ない。
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