厨房は今日も今日とて暇だった。
なのに、なぜか店長は真柴兄妹を呼びだしていて。
そして出勤した俺を見て、
「今日お前いたのか。忘れてた、すまん」
謝った。
つまり、うん。
暇すぎた。
厨房を出た。
暇をつぶそうと。
佐藤君もいないし。
どこに行ったのだろう。
まあ、からかって騒いでいたら、美月さんに追い出されることになるだろうから、
佐藤君がいたところで俺は厨房にいるつもりなどないのだけど。
妥当に、佐藤君がいるとしたら休憩室だろうな。
なんか、わざわざ佐藤君に会いに休憩室に行っているみたいじゃないか。
ぞっとしないね。
まあその通りなんだけれど。
適当にからかう為だと解釈してくれるだろうな。
そして、少し鬱陶しそうな顔をして付き合ってくれるのだろう。
それがいいな。
休憩室の扉は開いていた。
誰もいないときは閉めるようにという事だから、つまりは誰かいる、と。
やったね、ビンゴ。
佐藤君はここに居るのか。
でも入りかけて躊躇った。
いや、やめた。
だってそこには轟さんと一緒で幸せそうな佐藤君がいたから。
いやーいいなー。
好きな人と一緒に居られない俺とは違って、へたれでも好きな人と一緒に居られるなんて。
羨ましいな。
これからの展開が面白そうだったから少し覗き見るだけで去ろうとはしなかった。
互いに無言。
轟さんは何も言おうとしないし、佐藤君も見つめるだけだ。
見つめるって、え? 佐藤君のいつものへたれスキルはどこに行った?
と思ったらこくりと轟さんが頭を動かした。
もしかして、寝てる。
もしかしなくても、寝てる。
ああだから、佐藤君は轟さんを見てられたのか。
納得と同時に佐藤君のへたれは相変わらずだ。
何かそれにしては幸せに満ちている空間に虫唾が走る。
いや嘘を吐いた。羨望だ、この感情は。嫉妬と言い換えても構わない。
その空気に入れずにいると、佐藤君は静かに笑った。
「八千代……」
何だよ、もう。
ずたぼろだよこっちは。
あんなふうな表情俺には見せてくれないくせにさ。
一緒に過ごしている時間も、話している時間も、ベッドに居た時間も、
彼はそんな顔をしなかったのに。
俺の愛しい人は別の人が好き。
それはあっている。
知っている。
嗚呼でもちょっとうれしいかな。
佐藤君がそんな顔するってこと、寝ている轟さんは知らないんだよね。
目次へ戻る
- 10/24
-
ちゃっかり登場したセフレ設定。あー愉快愉快、なんて言いながらちょっと泣きそうになる相馬さんが可愛い。
p.s.セフレって打ったら背触れってなった。なんかかわいい。