23.涙零れる


泣かない人だった。
強くて強くて。

とっても弱いのに。弱いとしか思えないのに。
モンスター一匹倒すにも苦労する、むしろ倒せていないのに。
なぜかとっても強かった。

だから近寄っても平気だと思ったのだ。
「なんですか、まさか傷は青春の勲章だ! 血まみれの俺カッコいい! とか思ってます?」
「思ってないよ!」
「えー、本当ですかあ?」
「何で疑うの!」
「だっていつもめちゃくちゃ苦戦してるじゃないですか。あれって傷増やすためじゃないんですか?」
「何で苦戦しているのを知っていて戦ってくれないの、戦士!」
「なんでも人を頼ってはいけないんですよ」
「そう言うところでまともなことを言うなよ!」

ボロボロになりながら、それでも怪物が現れたら真っ先にその切っ先を向けるのだ。
駆け出していくのだ。
強く、ありたいのだろう。
弱いからこそ。
でも、強い。

自分でも支離滅裂なのはわかっている。
でも、そうなのだ。

…勇者さん。
そのあなたが、何で泣いてるんですか。

「戦士!」
心配そうな顔して駆け寄ってくる。
「来ては、いけま、せんよ…」
だってあなたは弱い。
俺があなたをかばっているうちに、それでも反撃してくるようなモンスターに太刀打ちできる訳が無いでしょう。

「だって僕は、勇者だから」

なんで、泣いてるんですか。
倒れた俺の目の前に、果敢にも、無謀にも躍り出したくせに。
なんで泣いてるんですか。

「戦士は僕が守るんだ」
まだ答えてませんよ、なんで泣いてるんですか。

ようやく立ち上がると眩暈がした。
そうか、倒れるほどの威力の攻撃をそのままに食らったのだから、ダメージは考えるべきだったな。
ただ、少なくとも。
勇者さんよりは攻撃力は高い。

眩暈さえしてなければ、こんな大技使わなくていいのに。
ほとんど渾身の力で。

モンスターが飛び散った。

「せん、し…」
「舐めないでください。これぐらいじゃやられません」
ひどく安心したような顔で、勇者さんはこちらを見るのだ。
なんで。

「良かった、本当によかった」
また一粒目から落ちた。
それを指で掬うと、驚いたような顔をした。

ぺろりと舐める。
「おいしいもんじゃないですね」

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ロスはこれぐらいじゃなくちゃ。心配で泣いたなんてこと、最強は分からなくていいんです。
そして、心配だけじゃなくて、守れない悔しさで泣いたなんてこと、アルバさんの中でだけでいいんです。
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