泣かない人だった。
強くて強くて。
とっても弱いのに。弱いとしか思えないのに。
モンスター一匹倒すにも苦労する、むしろ倒せていないのに。
なぜかとっても強かった。
だから近寄っても平気だと思ったのだ。
「なんですか、まさか傷は青春の勲章だ! 血まみれの俺カッコいい! とか思ってます?」
「思ってないよ!」
「えー、本当ですかあ?」
「何で疑うの!」
「だっていつもめちゃくちゃ苦戦してるじゃないですか。あれって傷増やすためじゃないんですか?」
「何で苦戦しているのを知っていて戦ってくれないの、戦士!」
「なんでも人を頼ってはいけないんですよ」
「そう言うところでまともなことを言うなよ!」
ボロボロになりながら、それでも怪物が現れたら真っ先にその切っ先を向けるのだ。
駆け出していくのだ。
強く、ありたいのだろう。
弱いからこそ。
でも、強い。
自分でも支離滅裂なのはわかっている。
でも、そうなのだ。
…勇者さん。
そのあなたが、何で泣いてるんですか。
「戦士!」
心配そうな顔して駆け寄ってくる。
「来ては、いけま、せんよ…」
だってあなたは弱い。
俺があなたをかばっているうちに、それでも反撃してくるようなモンスターに太刀打ちできる訳が無いでしょう。
「だって僕は、勇者だから」
なんで、泣いてるんですか。
倒れた俺の目の前に、果敢にも、無謀にも躍り出したくせに。
なんで泣いてるんですか。
「戦士は僕が守るんだ」
まだ答えてませんよ、なんで泣いてるんですか。
ようやく立ち上がると眩暈がした。
そうか、倒れるほどの威力の攻撃をそのままに食らったのだから、ダメージは考えるべきだったな。
ただ、少なくとも。
勇者さんよりは攻撃力は高い。
眩暈さえしてなければ、こんな大技使わなくていいのに。
ほとんど渾身の力で。
モンスターが飛び散った。
「せん、し…」
「舐めないでください。これぐらいじゃやられません」
ひどく安心したような顔で、勇者さんはこちらを見るのだ。
なんで。
「良かった、本当によかった」
また一粒目から落ちた。
それを指で掬うと、驚いたような顔をした。
ぺろりと舐める。
「おいしいもんじゃないですね」
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ロスはこれぐらいじゃなくちゃ。心配で泣いたなんてこと、最強は分からなくていいんです。
そして、心配だけじゃなくて、守れない悔しさで泣いたなんてこと、アルバさんの中でだけでいいんです。