19.穢れ無きもの


触れたら汚してしまいそうだった。
穢してしまうと思った。

真っ黒な。

「好きだ。俺は、お前が好きだ」
決死の覚悟だったのだろう。
でもその真剣な顔こそ、見たくなかった。

想いと呼ばれることを告げられて、やってしまったと思った。

壊した。狂わせた。
昔々、白夜叉と呼ばれ、返り血を浴びながらなお銀に鈍く光った、その色で壊した。

「駄目だ」
何でそのままでいてくれない。
漆黒のつややかなままで。
それを壊したくなかったのに。

憧れていたのがいけなかったのだろうか。
黒色に。
闇色に。

「穢れないままでいてほしかったのに」
触れてこようとするその手から逃れた。
逃れられないと分かっていても、逃げたかった。
その手に本当は縋りたかったから、本当の意味では逃げることはできなかったのに、
逃げた。

「俺なんか、かまうな」
忌み嫌われたこの銀色に何故執着するのか。

でも、言ってきた。
「黒は黒だ」
何にも染まらない。
だから、大丈夫。

なんだよ、それ。
「何が大丈夫なんだよ、ばーか」
言いながら、抱きしめてくれるその腕に、胸に、身をゆだねた。

少しだけ救われた気がした。
関わりを持っても黒は黒だなんて。
その言葉で大丈夫と自分に言い聞かせた。

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今までの中で最短では!?
それにしても思いつくやつ思いつくやつが暗い…
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