――珍しいじゃない、君がこんなビラビラした服を着るなんてさ。
彼はそう言いながら部屋に入ってきた。
「同じような服を着てるのに身も蓋も無いね」
大きな襟のレースをつまんできた手を払いのける。
「仕方ないだろう、生誕祭なんだから」
「まるで死んだみたいだね」
「そんな風に周りは言ってくるんだから」
仕方ない。
もう一度そう言った。
「似合わない。君も好きじゃないだろう、こんなの着るの」
確かに好きではない。こんなのを着るのは。
それでも、正面切って似合わないと言われるのは。
なんというか、癪に触る。
「ほとんど同じような顔をしてるのによく言うよ」
「全然違うじゃないか。僕と君とでは、さ」
今度はその指が顎を撫でてきた。
「イトコだろ。似てるって」
「いいや、似てない」
確固たる口調でそう言い切った。
隔世遺伝とはまた違うのだが兄弟よりも従兄弟の方が似ているというのはままあることだ。
それが、今回のパターンはたまたま、双子と間違われてもおかしくないぐらいに似ていただけ。
「大体君さ、僕が君と似ていたら、むしろそっくりそのまま同じようなものだったら、
君を愛している僕はほとんどナルシストじゃないか」
「それはこっちからも同じことが言えるけれど」
油断していたら近づいていた指を払い損ねた。
ひらりとリボンが下に落ちる。
「僕と君は違う。僕は似合うけど、似ていない君は似合わない」
ベストのボタンが一つ外された。
「過剰なんだよね、こんなもの要らないのに」
少し恨みがましい口調。
ベストのボタンが完全に外れた。
「君は僕に愛されてればいいの。それ以外は、余計で、余分で、過剰だ」
「あ、もう、ちょっと。もしかして、さ、このままベッドに連れ込もうとしてない?」
「もちろん」
ブラウスのボタンを一つずつ外す手にはよどみがない。
「僕の誕生日会なんだけど」
「そんなもの蹴ってしまえばいいよ」
「いや主役不在って」
「何度も言わせないで。君は僕に愛されてればいいの」
彼はそう言った。
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誕生日会が本人不在なまま執り行われるというのは、なんというか、もはやシュール?