16.自分の歴史


思い出すのはなんでだろう。
それともこれは走馬灯と言ってもいいのだろうか――。


キラキラと光る砂の山。
サラサラと手から零れ落ちる水。

お山の間を川がくぐって、下に掘った穴でつながった手はやたらと熱かった。
懐かしい感覚。
匂いが一番記憶に呼びかけると言うけれど、本当のことなのかもしれない。
土埃の香りが。

陽に照らされて熱くなった鉄棒。
更にその逆上がり用のプラスチックのプレートに寄り掛かって。
日差しが汗を流させた。

桜が舞った校庭で、見た後姿は遠かった。
あの春はやたらと早く来て。
それは彼を連れ去ってしまいそうだった。
そう、あの日も風が吹いて。
ひどく土で曇った卒業式だった。

待ってとの言葉は聞こえないふりをされたのだろうか。

でもあの背は酷くさびしそうで。
走っていけば、抱きしめてくれそうだった。

次に会ったのは、泣きたくなるような寒い冬の日だった。
高校の合格発表の掲示板の前で。
受かった事とは別に涙が出そうだった。
会えたんだ。
やっと。
でも、知らせてはくれなかったんだ。
こっちに戻ってきたことを。

それから、それから。

もう一回聞かせてよ。
嬉しかったよ。
本当に。

「好きだ」って。

避けられてると思ったから。
あの幼い日の滑り落ちる水のように。
手のぬくもりはいつの間にか消えてしまっていたから。
気が付かない間に。
気配さえも感じられなくなっていたから。

「好きだ」
って、まだ言っていないじゃないか。
少しぐらい照れたところで、別に、伝えたいのだからいい。
そんなこと、どうってことない。

だから、だから、もう一回。
「好きだ」って。
言って、よ。

ああ。
死ぬのか、な。
死んじゃう、の、かな。

だってまだ、此処だって避けきれてない。

真下に入ると光の反射が無くて、真っ黒にしか見えない。
その、赤茶色。
一体どれぐらいの重さがあるのだろう。
鉄塊は。

生きたい。
助けてくれたのだから。

代わりになんて救ってくれなくてよかったのに。
あなたのいない世界なんか、今の思い出のどれよりも、霞んで見えて仕方が無い。

土埃の向こうで、もう見えない。

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10/10
銀さんの誕生日です。でも、特に関係ないです。銀誕はまた別にあげますねー。
この話について、分からなかった解説を読んでください。(解説が必要って、どんな…)
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