思い出すのはなんでだろう。
それともこれは走馬灯と言ってもいいのだろうか――。
キラキラと光る砂の山。
サラサラと手から零れ落ちる水。
お山の間を川がくぐって、下に掘った穴でつながった手はやたらと熱かった。
懐かしい感覚。
匂いが一番記憶に呼びかけると言うけれど、本当のことなのかもしれない。
土埃の香りが。
陽に照らされて熱くなった鉄棒。
更にその逆上がり用のプラスチックのプレートに寄り掛かって。
日差しが汗を流させた。
桜が舞った校庭で、見た後姿は遠かった。
あの春はやたらと早く来て。
それは彼を連れ去ってしまいそうだった。
そう、あの日も風が吹いて。
ひどく土で曇った卒業式だった。
待ってとの言葉は聞こえないふりをされたのだろうか。
でもあの背は酷くさびしそうで。
走っていけば、抱きしめてくれそうだった。
次に会ったのは、泣きたくなるような寒い冬の日だった。
高校の合格発表の掲示板の前で。
受かった事とは別に涙が出そうだった。
会えたんだ。
やっと。
でも、知らせてはくれなかったんだ。
こっちに戻ってきたことを。
それから、それから。
もう一回聞かせてよ。
嬉しかったよ。
本当に。
「好きだ」って。
避けられてると思ったから。
あの幼い日の滑り落ちる水のように。
手のぬくもりはいつの間にか消えてしまっていたから。
気が付かない間に。
気配さえも感じられなくなっていたから。
「好きだ」
って、まだ言っていないじゃないか。
少しぐらい照れたところで、別に、伝えたいのだからいい。
そんなこと、どうってことない。
だから、だから、もう一回。
「好きだ」って。
言って、よ。
ああ。
死ぬのか、な。
死んじゃう、の、かな。
だってまだ、此処だって避けきれてない。
真下に入ると光の反射が無くて、真っ黒にしか見えない。
その、赤茶色。
一体どれぐらいの重さがあるのだろう。
鉄塊は。
生きたい。
助けてくれたのだから。
代わりになんて救ってくれなくてよかったのに。
あなたのいない世界なんか、今の思い出のどれよりも、霞んで見えて仕方が無い。
土埃の向こうで、もう見えない。
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銀さんの誕生日です。でも、特に関係ないです。銀誕はまた別にあげますねー。
この話について、分からなかった解説を読んでください。(解説が必要って、どんな…)