13.思い出の小箱


卒業式が終わった。
「直人の家にこれから行っていい?」
「ああ」
その反応は、もしかして忘れてる?

「でも、卒業式の日にこれからって、大丈夫なのか?」
直人の目には不安のようなものが滲んでいる。
「タイムカプセル。掘り起こしに行くんだけど」
そう言うとその不安は消えた。
直人は僕が忘れているか不安だったってことか。

「分かってる?」
「当たり前だ。むしろ、おまえの方が忘れていると思った」
「俺は忘れないよ」
約束だから。
三年後、中学校の卒業式の日。
小学校とは日付が違うから丸三年には一週間ほど足りないけど。

「それは、よかった」
先ほど滲んでいた不安が消えた声は、不自然なほどに安堵していた。
違和感。
まるで忘れられていると困るような。

「でも、何埋めたっけなー」
「カード入れなかったっけ?」
誤魔化した?

「手紙も、一緒に埋めたよな」
「うん、そうだね」
「交換するって、約束で」
「したね、そんな約束も」

小学校は俺の家の方が近かったけど、中学校は直人の家の方が近い。
5分足らずであっという間についた。
もう少し、昔話をしているのも楽しかったんだけど。
直人と隣を歩いて話すのも、楽しかったんだけど。

そういえば、と前置いて。
「どこに埋めたか分かってるの?」
「上に石を置いただろ」
それは忘れてるんだな、と直人は笑った。
「そうだっけ」
それは確かに忘れてるかも。

「どれぐらいの深さだったとかも覚えてないよ」
とにかく夢中で掘ったことは覚えている。
でも、小学生の結構深かったは当てにならない。

ザクリと音がして土はやすやすとシャベルの下半分を飲み込んだ。
「それは俺も覚えてないな」
それにしても今日の土は柔らかいなーと独り言ともつかないことを直人は言った。
スコップの為にしゃがんでいる直人のつむじが見えて新鮮な気分だ。
背の高い直人のつむじを見る機会なんてまるでないから。
「昨日雨が降ったから」

「もっと深いのか…」
直人が力いっぱいスコップを差し込むと、ガインと鈍い音がした。
硝子と鉄がぶつかった音だ。

スコップを柔らかく周りに入れて、てこのように力をかけると真っ暗な中からガラスがむくりと起き上がってきた。
それをそっと大切そうに直人が出す。
心ここにあらずというような目で、いやむしろすべての意識がはちみつ瓶の中に行っているようだった。

「あけないと」
「あ、ああ」
ごくりと直人はつばを飲み込んだ。

外が汚れているだけのように見えたはちみつ瓶は浸食されて中が茶色くすすけていた。
「手紙、よめるかな」
「え、、、それは困るな」
「なんで? ってか、直人、手紙に何かあるの?」
「あー、まあ、な」
ひどく言い辛そうにしている直人。
「まあ、見てのお楽しみってところか」
そうして、ぎこちなく笑った。

ぱこんと音がして、瓶が開く。
端が茶色くなった二通の封筒。
「緑がお前で、水色が俺の書いたやつ。あってるか?」
「確かにそうだったね」

だから、水色を俺がとって、緑を直人がとった。
「せーの」
確か俺の書いたやつにはびっしりとどうでもいいことを便箋二枚分に書いたっけ。
何を書いたかはもう忘れてしまった。
後で直人に見せてもらおうかな。

そんなことを考えている隙など、すぐになくなった。
直人からの手紙に書かれていたのは一行。
被せるように直人の声。
「す、“好きです”」

「これ、もしかして」
「もしかしなくても告白、です」
「だって、三年前」
って、むしろ小学生の時。
「三年後、お前が覚えていたら、その時に告白するつもりだった」
ちょっとした願掛け。
直人が恋する乙女みたいに笑うから、驚いた。

「付き合って、とかって話になるわけ?」
「あわよくば」
下唇を噛み締めて何かを覚悟したようにこちらを見る直人。
そうか、引かれて、もう二度と会話できないかもしれないってことがあるから、
直人はあんなに変だったんだ。

「大丈夫だよ」
「…?」
「好きだから。俺も、直人のこと」
「それって」
「うん、だから好きだよ」
そう何度も言わせないでよ。
少し、困る。

「――三年前に、告白しておけばよかったかな」
でも、まだ戸惑っているような直人に言ってもなんて反応するか分からなかったし。
それもまた、仕方ない。

しゃがんでいて目線が同じの直人の頬にそのまま口づけた。
俺のちょっとした行動さえ赤面していたあの頃の直人を思わせるぐらい、一気に頬が紅く染まった。
小学校の時みたいに。

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10/07
なんか主人公君が攻めになってしまった。最初は受けのつもりで書き出したんですけど。
つむじがどうのこうの言っているあたりから怪しくなっていましたけど、直人君が赤面なんてするから。
ってか、可愛らしく告白なんてするから…っ!
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