11.薔薇窓


「俺さ、『秘密の花園』って話が好きだったんだけど」
「あー、あれね」
「知ってんの?」
「いや、小っちゃいころに誰でも一度は読んだことある話だろ?」
「まあそんな風に言えないこともないけど」
「男の子と女の子と最初は両方とも不細工に思えてたんだけど、段々と金髪の美少女と美少年に思えてきてさー」
「そう言うと身も蓋もないな…」

「秘密のってところにときめきを感じねーか?」
「いや、トキメキって言い年した男が言う事じゃないし。それに『秘密の花園』の話題だしたの俺だからね?」
「まったく、こまけーなー」
「いやいや。細かいとかそう言う話じゃないから。全く、話が進まない」
「あ、なにこれ終着点があって話してた?」
「してたしてた」
「ごめん、どうぞ?」
「いや、そんな大した話じゃないんだけどさ」

「どっちだよ!!」
「今言おうとしてたーっ!!」
「じゃあなんで大した話じゃないとか…」
「いや、日本人として譲歩するというか、なんかそういう事をすべきかなと言うか、むしろ習性…?」
「いや、別にいらねーし」
「そんなこと言われても癖に近いからなぁ」
「まあいいや、で?」
「結局まあいいで済ますんじゃないか! あー、いい加減進めるね」
「おう」

「だからさ、小さいころは裕福なおじいさんになりたかったんだよね」
「は? 目指すのそこ?」
「うん」
「いやだって、男の子とか女の子とか! いたじゃん! もっとこう、若くて恋愛とかしてて、楽しそうな登場人物!」
「あの花園の管理者になりたかったんだよ。素敵じゃない? 綺麗な箱庭の所有権を持っているなんて」
「だからお前は乙女かよ!」

「いやー、ねえ」
「伝わらねーからな!?」
「まあ、そう言う事だよ」
「…あー、うん。慣れって恐ろしいな。ちょっとわかった」
「さすが!」

「つまりはさ」
「その次になりたかったのは花屋さんね」
「なんでそっから雑貨屋さんに飛んだんだ?」
「いや、だってキラキラしてるし。女の子のためのお店って、名前じゃない」
「店名って、『秘密の花園』のイメージだったわけか…」
「そう、薔薇窓」
「実際に作っちまったしな」

「もうそろそろ開店だね」
「ああ」
「そんな無愛想で出ないでよ」
「ああ」
「俺の店をつぶすつもり?」
「まさか。いつまでも幸せに二人で暮らしたいよ」
「…まあここは二人きり、いや物語では三人だけの『秘密の花園』であったら困るしね。儲からない」
「さっきまでのロマンティストはどこに行った」
「現実を見なくちゃね…」

「薔薇の窓の近くでキスをするなんて、ロマンティックじゃないか?」
「逃げた?」
「売上表を頑として見ないお前に言われたくない」

「薔薇で窓を作るってさ、閉じ込めている感じするよね?」
「あー、もう。どっちがだよ。ってか、店名はお前がつけたよな?」
「薔薇のとげがあるので外に逃げられません。なんて、お伽話っぽくない?」
「なんだよ閉じ込めておきたいのかよ」
「うん。君をこのままここに入れておきたい」
「はいはい。でもそれはむしろこっちのセリフなんだけど」

「「どこにも逃がさない」」
「ってこれ、ソレだけ聞くと蜘蛛の巣みたいだな」
「メルヘンだけどね、元の言葉の響きだけは」
「でも今の意味だけで言うと檻でしかないけどな。閉じ込めるのだから」

「まあ、その檻を維持するためにも働かないと」
「そーだな」

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10/05
会話文のみの習作。オチが付かなかった。
全部交互に来ているのですが、それでも判別がほぼ不可能…。
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