10.真っ直ぐ前へと


淋しげにまつげを伏せて、冷たい表情のまま銀時は言った。
「別れようか」
「は? なんでいきなり」
取り合わずに煙草の煙を肺いっぱいに吸い込んだ。

「いきなりじゃねーよ。知らない訳はないだろう――」
銀時の口から出てきたのは、ある雑誌の名前。
ある程度予想はしていたため、軽く握り直すだけで煙草を落とすことは無かった。
しかしそれでも動揺を見破られてしまう。

「やっぱり、知ってんじゃねーか」
逢瀬を、ホテルに入ってく所を、週刊誌にすっぱ抜かれた。
『真選組副長、男までとっかえひっかえ!?』と、それは根も葉もない見出しだったが、
この目の前にいる男と一緒にホテルに入った、週刊誌に載った写真だけは事実だった。
「でも今回の事はもみ消して、無かったことに…」
だから、俺は大丈夫だ。
そう言ったが、睨まれる。力のない目で。

「じゃあなんで、一週間連絡がつかなかったんだよ」
煙はこの時ばかりは気分を落ち着けてはくれなかった。
騒ぎになった以上は仕方なく、組織の中で処分を下さなければならなかった。
それが地下牢に一週間入れられるというものであったにせよ。

謹慎処分。近藤さんたちは精一杯抵抗してくれたが、これぐらいは甘んじて受け入れなければならないと思った。
油断があるからこうなるのだと。
二度とこんな事で周りが騒ぐようなことがあってはいけないと。
銀時に迷惑が及んではいけないと。

でも、その努力も銀時はさせてはくれないのだろうか。
「でも、もう大丈夫だ」
たしなめるようにおどけて、銀時は言った。
「警察が不祥事だなんて一番やっちゃいけねーことだろー」

そして普段は死んだままのその目に色が入る。
「二度とこんなことが有っちゃいけないんだよ」
すっぱり潔く、銀さんってばカッコいいだろ?
「なら」
ならなんで、
「なんでそんな顔してんだよ」
下唇を軽く噛み締めるような。
そんな表情。
煙草を灰皿に押し付けてもみ消した。

「邪魔、したくないんだよ。土方の邪魔にだけはなりたくない」
「邪魔なんかじゃねェ」
「でも、もう一回おんなじことがあったら?」
不安げな声を出す銀時。
何だよ、情けないな。
そんなの、
「権力でぶっ潰すに決まってるだろ?」
こちとら、真選組の鬼の副長、土方十四郎様だ。

「なあ、邪魔だなんていわないでくれ」
「でもさ、平穏に暮らしていくための障害物でしかないだろ、俺は」
「その平穏にどうしても必要なんだよ。お前がいなくちゃしあわせにはなれねぇ」
ああ、もしかして俺って普段だったら口にできないようなすごく恥ずかしいことを口にしてない?
そんな風には思ったが、今はどうでもいい。

ただ、一滴の涙に濡れたその唇に、キスを落とした。

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10/04
電車のつり広告が発想の元です。
割とショッキングな出来事がかかれている事も多々あって…。
買ったことないんですけどね(笑)
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