敵地査察まで行ってきた。
車が壊れてしまいヒッチハイクで帰ってきたため、予定よりも3日遅れて今日やっと戻ってこられた。
自分の家に帰るのも悪くはないが、早く待ってくれているはずの彼の元へ行って無事を知らせたかった。
「イギリス―、帰ってきたぞ!」
しかし、出てこない。
インターフォンを重ねていくつも鳴らしたが、反応が返ってこなかった。
ドアノブをひねると鍵は開いていて、勝手に入ってしまったが誰もいなかった。
不吉を表すようにバサバサと鳥の羽ばたく音がした。
「イギリス?」
待っているって言ったのに。
「イギリスー?」
部屋を一つ一つ見て回るが、誰もいない。
居間に戻ってクッションまでひっくり返してみたが、
「いるわけないよな。あとはもう、本棚ぐらいしか……」
其れも望み薄とあきらめかけていたところで、近寄るとわずかに不自然な隙間ができていた。
手をかけて無理やりこじ開けると中は大きな空洞になっていて。
先には扉があり、光が零れていた。
「鳥のさえずり?」
ピーチクパーチクとかしましい獣の鳴き声が確かに聞こえる。
「イギリス、そこにいるのかい?」
ドアの中に入ると、それは不思議な光景だった。
中世の魔女みたいなぶかぶかのフードつきの深緑のマントを羽織ったイギリスの周りに、
色とりどりの鳥、鳥、鳥。
「イギリス、こんなところで何してるんだい?」
「な、ア、アメリカ!?」
顔がさっと赤くなるイギリス。
赤面するようなセリフでもあったかい?
「こ、これは別にお前のところに行くために集めたわけじゃないからな!?」
何で半ギレなんだろう。
「へー、そうなのかいイギリス?」
なるべく馬鹿にしたようなところを抑えて、納得したふりをしてそう言うとあからさまにほっとした。
全く、嘘吐くの下手なんだから素直に言えばいいのに。
「あー、うむ。任務お疲れだったな、それでだが…」
「イギリス待つんだぞ!」
このまま仕事モードに入ってしまいそうなところを慌てて止める。
それじゃあ、ここに来た意味が無い。
「おかえりのちゅーは?」
わざとらしくイギリスの唇を人差し指で撫ぜた。
「ただいまのキスの方が先だろう?」
しかしイギリスは、そんなもの予想していたみたいにひるまずそう言ってきた。
重ねて、唇の間に舌を割りいれて、絡める。
触れるだけのキスで済まそうだなんて甘い。
「ん、ふぁ、っぁ、ん」
久々に聞いた甘ったるい声に、このままじゃ止められなくなりそう。
いい加減苦しそうなので、離れたが、それでも名残惜しげにイギリスの唇を舐めた。
「それにしても、どうして鳥なんだい?」
真っ赤のままにフイと目をそらして小さい声でイギリスは言う。
「私用で、国のジェットをとばすわけにはいかないだろ…」
最後の方は消え入りそうに。
「やっぱすごく心配していたんじゃないか」
「そうだ! 悪いか!」
吠えるように言ってくるイギリスを抱きしめた。
「可愛いぞ」
ぼんっと音がした気がして、イギリスを見ると、今度こそ首筋まで真っ赤になっていた。
――◆――◆――
「大きな鳥がいないじゃないか。小鳥じゃなくてそっちを呼べばよかったのに」
「いや、大きな鳥は呼ぶのが大変だからな。まあ、さっきやっと来たんだが」
「どこにだい?」
「目の前にいるぞ?」
イギリスの指示す先には空間しかない。
「まあ、お前が帰ってきたしな、元のところに戻ってもらうか。
フェニックス、ありがとうな。帰っていいぞ」
イギリスはそう言って、確かにそこにある“何か”にキスをした。
バサバサと来た時に聞いたのと同じ羽音がして。
「…ふぇにっくすっ!?」
「ああ、そうだが」
なんてものを呼んでいるんだ、君は。
「じゃあ、これで俺は帰るぞ!」
「え、か、帰るのか」
「なんだい、帰ってほしくないのかい?」
「ま、まあそれは。だって、昨日までもう帰ってこないんじゃないかと心配して…」
何だこの可愛い生き物は。
疲労を回復してからまた襲うつもりだったがやめにした。
――◆――◆――
〜今朝のニュースです。大量の小鳥の群れがイングランドの上空を西方向へ横断するという…
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はい。
ちょっと長くなった。
イギーは相変わらず怪しげな魔術を使っていると思われ。
それにしても通信機器を使いなさいよ!