3.書をしたためる


拝啓 15歳だった君へ

久しぶりですね。
それと、すみません。変な宛名で。
あの曲を聴いていたら、急に懐かしくなったので。
あなたの事を思い出しました。

本題に入る前に、少し報告を。
結婚しました。もう一昨年の話ですが。遅くなってすみません。
なんか謝ってばかりだ。
挙式は身内だけでやったので、招待状も送っていませんでした。

奥さんは同じ会社の同期の子で、猛烈なアタックを受けて流されたようでしたが、
強引な彼女のペースに巻き込まれるのを不快に思わなかった自分がいたのも確かで。
気がついたら結婚していたような気がする。
驚いた?

さて、こっちが本題。
俺があの頃抱えていた誰にも話ない悩みを知っていただろう?

今の取り消し。
そんな風に誤魔化さないようにちゃんと伝えようと思って筆を執ったんだ。
「筆を執る」なんてじじくさい。俺も年を取ったんだと改めて実感するよ。
だからこそ、言えるんだと思う。

あなたの事が好きでした。愛していました。

持て余しぎみの感情とどうにもうまく付き合えなかった当時のおれは、今から見るとまだまだ幼かったのだなと。
本当に、今から見るとの話。

好きだと言われたとき、本当に嬉しかった。
でも、同性に恋愛感情を抱くということに戸惑って、慌てて、もがいて。
どうにかしてその気持ちを押し殺そうとあの頃の俺は頑張っていたから、結果的にあなたを拒否することになってしまって。
それでも、それからまた普段通りに接してくれたのは嬉しかった。
離れて行かないでくれて、嬉しかった。

嬉しかったから失いたくなかった。
今なら言える。
触れたかった、一緒に歩きたかった、手をつなぎたかった、キスもしたかった。
あの時の恋は辛かったけど、本当に幸せでした。
15歳だった俺から、ずっとずっと伝えたかったことでした。

あなたが大好きだった歌。聞いていて泣きたくなった。
あなたは今どこで、何をしていますか?
俺は幸せです。
懺悔のようなものに付き合わせてしまって申し訳ない。
あなたに幸多くあらんことを。
 愛をこめて


「俺は今でも好きだっつーの」
それでも、今ここで恋が終わった。

手紙を丁寧に折りたたんだら、零れる一粒。
「今更なんだよ」
全てはすでに決着がついている。
だから本当に、彼は15歳だった時の俺に手紙を出したのだろう。

好きだったさ。
君の幸せが僕の幸せなどと歯の浮くようなセリフを本気で心の中に持っていたぐらいに。
だから。
「幸せならそれでいいよ」
幸せならば、俺も幸せだ。

目次へ戻る

9/28
両想いになりそこなったというイメージで。
それにしても、書をしたためる→手紙を書く→アンジェラ・アキ『手紙』と連想ゲームしました。
安直ですみません。
inserted by FC2 system