全部がもし反対のことだと言ったらこの人は壊れてくれるだろうか。
君の傍に居たいよ、近くになんて行きたくない。
綺麗だね、醜いんだよ。
キスしたい、触れたくない。
ずっと一緒に居られたらね、早くここを離れたい。
好きだよ、嫌い。
愛してるよ、大嫌い。
「帰ろうか」
差し出される手は温かくて大きくて。
冷たい日でも、手袋なんかするよりも全然暖かくなれる。
「ねえ、それでね…って、聞いてないね?」
ううん、聞いてたよ。
でも興味のない振りをしてた。
「好きだよ」
日に何回も降り注ぐ、甘い甘い言葉。
指がするりと絡んできた。
始まりはいつだっけ。
でも、覚えている限りにおいて、彼の事はキライだった。
「好きだよ」
ギュッと手を握ってくる。
温かい。
そのぬくもりさえ鬱陶しい。
本当は冷たい方が好きなんだ。
冷ややかな方が、落ち着く。
「大嫌いだ」
「そう?」
なんで。
彼は笑った。
何がそんなにおかしいの。
「だって、愛情の反対は憎悪じゃないから」
それ以上綺麗ごとを聞きたくなくて、その口を塞いだ。
「やっぱり大嫌い」
「そう? 僕は好きだよ」
「やっぱり大好き」
「ありがとう」
何でもかんでも見透かしているような彼が大嫌いだ。
全てが違うんだと言いきっても、なんでも知ってそうな彼が嫌いだ。
いつもそばにいる彼が大嫌いだ。
何でも受け止めてしまう彼が嫌いだ。
「愛してるよ」
何を言ってもその一言ですべて片づけてしまう彼が大嫌いだ。
目次へ戻る
- 9/27
-
偽りの仮面って、解説につけようと思ったんですけど、カップリングでもないのに中二臭いなと思ってやめました。
ここで言ってしまっては意味無いですけど。