土井きり

大人と子供

 女が一人もいない所帯であるため、片づけは当番制である。こちらに背中を向けて夕食の片づけをする背中に手を伸ばしたくなる。なんとなく、自分のために家事をする背中にはそそるものがあるのだ。いい加減思考がおやじ臭くなっている自覚はあるのだが、後ろで一つにくくった黒髪が柔らかに背中で跳ねるのを見ると、それを手元でもてあそびたくなるのは男の性だろう。

「きり丸、それはあとでやっておくから、今おいで」

「へ? 今ですか?」
 私が下衆な思考で呼んでいるとも知らずに手拭いで軽く指をぬぐって、きり丸が疑いもなく近づいてきた。


 きり丸の気持ちに応えたのはこの間の夏休みのことであった。気が付いた時にはきり丸は美しく逞しくなっていて、特にこの年頃の子供成長は顕著だ。心も体も成長し、自然と目を引いた。それは他の子たちよりも近しい仲にあったからであろうし、きっと私はきり丸自身がその感情を自覚する前からきり丸の感情に気が付いていた。知らないふりをしていたのはきり丸の前でだけであった。

 きり丸から初めて告白をされたとき、どうしようかと思った。いい、断りの言葉が見つからなかった。どう突き放せばいいのかわからなくて、自分が突き放したくないのだということにも気が付いていた。だからそこからひたすらはぐらかすこと二年間。私の気持ちはのらりくらりと言わないで、きり丸の気持ちもなるべく言葉にして聞かないようにして、それだというのにしつこいぐらいにきり丸は私に好きだと言った。親愛の好きも、恋の好きも混ぜて言えば、私が聞いてくれると分かってからは、極めて巧妙に好きだと吹き込まれて。たったの二年間できり丸からも、私からも逃げ続けることができなくなってしまった。

 きり丸に誕生日のお祝いをあげるといったあの夜。きっと私は「先生が欲しい」と言われることを予想していた。それで、私がちょっと困った顔をすればわがままを言わないであろうきり丸のことを分かっていて、「何が欲しいんだ?」と聞いた。私は嫌な大人だ。案の定きり丸は、私が欲しいといい、無理ならば、抱きしめて寝てほしいと言った。

 ああ、そう来たかと私は思った。ただものをねだるのとは違う。分別がつき知恵がついた子供は、自分の考えも及ばない回答を導き出してしまう。その言葉を言われたとき、その先の自分の行動を悟ったと言ってもいい。夏休みの一日目の夜に、これからの夏休みはきっと、私は耐えきれなくなるだろうと安易に予想がたった。そして夏休みどころかその日のうちに私は禁忌としてきたことを自ら破った。

 夏はもうはじまった時期であったが二人入った布団は暑苦しくもなく、ただ温度のことだけで言うならぬくもりがちょうど心地よかったぐらいだった。ただ二人入っていただけならいざ知らず、このぬくもりの主を腕に抱きしめて眠るということがどれだけ難しいことか。腕に抱いているだけで分かる。腕の中の彼は全く眠れそうになかったし、その緊張がこちらにも伝わってきて、たまらなくいじましい。狸寝入りを決め込んでみたものの不自然な点を見破られて声をかけられ、出来心からその体に手を這わせた。と言ってもただ純粋に子供をあやすような動きになるよう細心の注意を払って。指先から伝わる感覚が下心を直撃したがそれはぎりぎりで押さえつけた。

 そうして気が付かれていなかったであろう拮抗した攻防戦は、次の言葉であっさりと比重が傾き崩れ去った。好き、と腕の中で告げられて、それが好きな人であるのに何もしないということができる人がいるならきっとその人は人間ではない。そんな暴論を翳して本能に従い、口を塞いだ。これ以上何かを言われること考えたら、多少時間が前後するだけでどうせ同じことをしていた。唇に触れるだけであったのに今までのどの行為よりもひどく情欲を掻き立てられ、目が合うと次は舌を口内に侵入させた。

 きり丸は私にいいように口内を荒らされて、ちらりと見たときにはぎゅっと着物の合わせを握りしめて涙目でこちらを見ていた。そのときまで私はまだこの子に何も言っていなかったというのに。まだ湿り気を帯びた唇を再び塞いでしまいたい衝動に駆られながら、それをなんとか追い出して想いを告げた。

 それから夏休みの間はなんとかこらえた。交際、という形になるのかお互い明確に口に出しはしなかったが想いを通じ合わせて、それから短絡的に行為に及ぶような浅い関係であると思われたくなかった。今まで私がたたらを踏んでいた時期を思い返すとひどく長くきり丸は待っていたように思っただろうが、それでもまだ十五の子供だった。そうとでも言わないと今まで考えないようにしてきた感情が、全て行動として発露してしまいそうだった。

 次の長期休暇の冬休みで、お互い確かめるように体を繋げた。いつかはこうなるだろうと思っていたし、むしろ夏休みという長い時間を一緒に過ごしてもこうならなかったことで一つの段階を超えられたような気すらした。

 それから今に至るまで、数えるほどしか体を重ねていない。だからまだきり丸は行為に慣れているとは言えなかった。

 
 きり丸が食器の片づけをしている間に布団を敷いて置いた。布団の上に座ったまま手招きをして呼び寄せたが、どうすればと迷うそぶりをみせたので座るように指示する。地面にお尻をつける前に腰をさらって、膝の上に座らせた。

「え、ちょっ、先生?」

 戸惑ったような声を出すきり丸は、こちらが腕を回して後ろから抱きかかえると体をわずかに強張らせた。ぎゅっと手を握りこんで、耳を赤く染める。本当はそのしぐさこそが煽情的だ。

 初めて押し倒した時も、こんな反応をされた。怯えて怖がるようなそぶり。きっと、この年の子にとって大人に身動きを封じられることは、快楽を伴っていようとも本能的な恐怖を与えてしまう。腰つきがそそるとか考えているのはこちらみたいなおやじだけで、もしかしたら性欲そのものが薄いのかもしれない。

 極力、嫌がることはしたくない。特に押し倒されたときなんかは完全に身動きが封じられることとなり、恐怖を与えてしまうのではないか。だから、まだ慣れないうちは触れるだけにとどめたほうがいいだろう。

 結局それすらも、自身の欲望を抑えきれなかった結果に過ぎないが、様子を見つつ、そのうち体も繋げていけばいい。こちらとしては手放すつもりなど毛頭ないし、たとえ時間がかかったとしても十代の子を永遠とも思えるであろう二年間を待たせた分だけ、何年でも待つことは難しいことではない。

 前に手を回すと着物の合わせに触れたが、ここから手を侵入させたら怯えさせてしまう。ぎゅうととりあえずは抱きしめて細い背中を体に寄せると、声は上げずとも腕の中に閉じ込めた体がすくんだ。

 できれば素肌に直接触れたい。目の前の、日に当たっていないうなじに歯を立てて、口でその柔らかさを知覚したい。首筋に指を這わせて、表面を通る血管をなぞるように舐めれば生理的に体が跳ねるのであろう。想像だけでひどく煽情的だ。

 震えそうなほど力が込められているのが分かっていて、それでもこの体を手放せない。首筋に顔をうずめると案の定ふるりときり丸は身震いした。首筋が赤く染まっているところをみると、不快に思っているわけではないことだけはわかる。だからと言って許可されているわけではないのだが、唇をつける。首筋に何度も押し当てると、その度に少し震える。かわいそうなほどに。

「嫌だったら、言ってくれ」

 耳元にわざと吐息がかかるようにそう囁く。

「いや、じゃ、ないです……」

 絞り出すように、しかし顔が近くにあるからか首は振らないで前に呟くようにきり丸はそう言った。自分が触りたいから、こうして拒否できない状況で分かり切った問いを投げかける。そして、ここで嫌じゃないと言ってしまった以上、何も言われなければこれをやめなくていい口実ができてしまった。ずるいな、と思いつつもしっかりと言質をとる。

 膝の上で固く結ばれた手に触れる。浮いた甲の骨に沿って、指までなぞる。小指から指を差し込んで掬えば、あっさりと手の力は抜ける。指の間に指を入れて、すっぽりと包み込むように指を絡める。

 反対の腕の下から手を差し入れて、膝がしらに置く。親指と薬指で膝小僧を挟み、骨と骨の間に指を入れるようにした。力をこめないで、ただなぞる。太ももに置いた手のひらから肉の柔らかさが伝わってくる。よく鍛えられた筋肉は、弛緩した状態ではとても柔らかいのだから、鍛錬に励んでいる証拠だろう。しかし今はその柔らかさは官能的な感覚しかもたらさない。

 太ももの付け根に向かってゆっくりと手のひらを動かす。わざと内腿も掠めるように撫であげた。

 少し触れてしまえばかえってつらくなる。分かっていて手を伸ばしたのは私だというのに、もう我慢ができないと根をあげたくなる。でも無理を強いることはしないと決めたのだから今日はやらない。ただ触れられるところまで、ぎりぎりいっぱいまで触れさせて欲しい。

 その色香に目が眩みそうなうなじに吸い寄せられるように顔を近づける。一度大きく息を吸えば柔らかく甘い香りが鼻腔に広がるようであった。産毛が見える。おくれ毛として普段は結い上げた髪の下に見えるが、あれもいい。ちょうど産毛と髪の毛の間のところに口づけた。その瞬間またわずかにきり丸が身動きした。でももう、嫌だったら言って欲しいとは言わない。きちんとさっき告げたのだから。

 触れるたびに過敏に反応する体躯。もしかしたら目元には涙が光っているのかもしれない。私と違ってきり丸は子供で、まだこういうことは早いと私は分かっているはずなのに、そういった反応をみてもなお自身の情欲を煽られている。怖くて震えているはずなのに、その姿がいじましく愛らしいのだ。泣かせたいわけではないのに、泣いている姿を想像しただけで背筋をぞくりとした快感が走る。

 赤く染まった耳朶に息を吹きかける。

「ひゃっ……!?」

 喉の奥から絞り出されたような小さな悲鳴があがった。構わずにこめかみのあたりから食むように口づけていく。舐めたらきっともっと可愛い声で鳴くのだろう。名残惜しく思いながら耳朶を離れて唇は今度は顎にむかう。下顎に沿っていけるところまで。自分の唇のほうが柔らかいはずなのに、唇から伝わってくる肌の柔らかさに全神経が集中してはじけるような感覚を楽しんでいる。

 吸い寄せられるようにうなじに唇を近づける。産毛は短くつかめないが食むように動かせば、わずかに起きる風にも敏感に反応する。それでも反応をしないように必死にこらえているのか。ぬばたまの黒髪のように同じく豊かでつややかなその長いまつ毛に、光るものを作ってこぼれそうに震えているのだろうか。上気すると椿のように鮮やかになる唇の間から、吐息が漏れる音すら聞き逃したくない。

 肩口から正面に顔を近づけると、頬が触れた。柔らかい感触。手で直接触れるのも好きだが、こうして頬で感じるのも好きだ。きめが細かく滑らかな肌が気持ちいい。ここに唇を押し付けただけで、ふわりと真っ赤に染まることを知っている。多分、今許されている接触はその程度なのだろう。
 

 これ以上はだめだ。たまらなくなる。
 太ももに置いた手の平を再びおなかの前に回す。帯に少し触れただけでも反応が返ってくる。ああやっぱり、予想通りだ。

 もう片方の手とがっちりと固定し、布団の上にそのまま倒れた。ここできり丸の顔を見たらきっともっとだめだ。なのに、一度抱え込んでしまったぬくもりを手放したくない。解放されたいと熱が渦巻いているのが痛いほどである。しかし、それを解消できる唯一の人物は、この腕の中にいるのだから諦めて寝るしかない。我慢我慢と言い聞かせる。

「きり丸」
「……はい」
 若干声が震えているような気もする。そんなに怯えなくてももう今日は何もしない。安心させようと口を開く。
「今日は、このまま寝ようか」

 浴衣から出た足を片方だけ絡ませる。あくまで、肉欲を思わせないように。こちらとしては不純な動機が十割だが、それを感じさせないように。
 上の手だけ一回離して、足元のほうに丸めて置いておいた掛け布団に手を伸ばす。体勢を変えないように悪戦苦闘してようやく布団をつかんで引っ張って、二人の体をちょうど一人分の布団に押し込んだ。

「じゃあきり丸、おやすみ」

 抱きしめて寝る。おかしくないはないだろう。親子でも普通にすることだ。子供が十五になってもまだするかどうか、そこに関しての追及は避けたいところだが。

 体を横にして目をつぶる。高められた興奮が少しずつ落ち着いてくる。よく分かった馴染み深い体温だから、腕の中に閉じ込めて昔のように目をつぶれば懐かしい記憶がよみがえってくる。しっかりと手を出しているのに子供の時分を思い返して親のような感傷に浸るのは変な話だが、そうして思い出に考えを仕向ければきりきりと締め付けてくるような感情も凪いでくる。そうしないと、平静を保っていられない。

 昔よりも下がった体温、元よりあまりふっくらと肉付きの良い方ではなかったが痩身に筋肉が付き固くなった体、広くなった肩幅。さらさらと伸びた黒髪は、小さい頃より役に立つからと丁寧に磨きが掛けられて、ゆらゆらと揺れるたびに魅惑の動きを見せる。そんな、昔との違いの一つ一つに目を向けないようにしないと、このまま一晩寝ないで夜を明かすことになる。
 核心に触れないように、わざと意識をそらしてそのまま沈めてしまおうとしていると、きり丸もやはり寝れないのかもぞりと体を動かした。

「先生?」

 しっかりと覚醒した声にこちらも混濁しかけていた意識をはっきりとさせる。

「あの、さ」

 言葉を探すようにそこで切れた。しばらくしても次の言葉が出てこない。呼吸音から、何かを言いかけてはやめるのが分かる。急かすこともない。やっぱり、この距離にいて意識しない方が私には無理だった。すっかり目が覚めてしまって、寝られそうにもない。きり丸が寝てしまったらそのあとは布団をもう一つ敷いて離れようか。

 そのとき、腕の中の体が回って、きり丸と向かい会う形になった。寝るところだったから力は弱いが、それでもしっかりと抱きしめていたので顔の距離が近い。きり丸はそのまま唇を重ねてきた。

「ど、どうした?」

 心臓がぎゅっと一度強く握られたような衝撃に襲われる。脈打つ音が大きく鳴る。やっと出せた声はそれが精いっぱいで、さっきまで私にいいようにされていたきり丸よりもよほど動揺しているのが隠せない。

「せんせ、」

 言いかけてやめたのか、それとも言葉を途中で途切れさせることに意味があるのか。少しかすれ気味に立ち消えた声が、頭の中で甘さを伴って残る。濡れて揺れる目がこちらを見上げる。やっぱり、涙がにじんでいたのか。まなじりに浮かぶ光る滴に吸い付いて、口に含んだ。

「んっ……」

 鼻に抜ける吐息。都合よく解釈してしまいそうになる。身を竦ませてはいるが、拒否はされていないなんて。抵抗できないだけだ。年齢はちょうど倍、身長も体格もこれからは分からないがまだ今の段階では私の方が勝っており、そんな相手に対して恐怖を抱かないわけがない。

 淡い音を立てながら額や頬、鼻に眉にと唇を押し当てる。そのたびにまつ毛が震えるのを見て、嫌がることはしたくないのにもっと欲深いことをしたい衝動に駆られる。動きを止めると、ぱちりと黒の眼がこちらを見返した。
 きり丸が振り返ったときに一度はほどけた足を再び絡められる。

「きり丸……」

 自分でも情けない声が出てていたと思う。足はさっきよりも深く絡んでいて、あわせの隙間から際どいところまで侵入されている。擦りつけられるように動かされて、今度はこちらが喉の奥から絞り出すような吐息を出す番だった。

「俺たち、恋人ですよね……?」

 悩ましげに眉を寄せてこちらを見つめてくる。恋人だったら触れ合うのが当然。そうだ、だけど、とりあえずいまはちょっと落ち着いてほしい。なんと言えばわかってもらえるか。理性が今ぎりぎりいっぱいの淵のところまできて、蟻ほどの大きさの小石が一つ投げ込まれたところで外にあふれ出していきそうになっている。

 相手はまだ子供なのに、いっぱいいっぱいになって。駄目だ駄目だと考えから追い出そうとするのに、広い面積で触れ合ってしまっている足が、前に体を重ねた時のことを容易に思い出させる。

「先生は、俺のこと好きじゃあないんですか?」

 襟のところを両手でつかんで引き寄せられて、唇が合わさる。きっと顔を見たらだめだと思ったからさっきはしなかったのに、するりとそんな勝手なものを飛び越えてきてしまう。きり丸の方から舌が侵入してきて、こんなのは初めてだと意識しただけでごまかしようもなく下半身に熱が集まる。

「俺は、こういう意味で、好きなんですけど」

 息が上がってしまって短く吐き出されるのと一緒に、そう言われる。

「好きじゃあないなんて、一言も……」
「じゃあなんで、何もしてこないんですか」

 何もしてこないと言っても、堪え性が無くすでに何度か手を出してしまっているのに。無理とか負担とかかけたくないその一心であったが、きり丸は思いつめたように言葉を吐き出していく。

「したくないなら、しなくていいです。はっきりそう、言って欲しい。俺の好きと、先生の好きと違うんだったら、俺は先生の好きを優先させます。好きって言ってくれた先生の言葉は信じたいから、都合良く解釈していつまでもそばに居続けますけど。でも、無理して俺の言葉に合わせて付き合っているとか、嫌なんで」

「な、にを、言っているんだ?」
 言われてすぐに意味を呑み込めなかった。

「だから、先生は、俺と体の関係を持ちたいとか思ってないんじゃないんですか」
「つまり、お前が言いたいのは、私が、お前に性的衝動を覚えていないと?」
 なんとなく固い言葉遣いになってしまったのは、少し驚きすぎたからだ。

「そうじゃあないんですか?」
「そ、そんなわけないだろう」
 さっきまでも隠すのに必死だったのだ。下心たっぷりの大人の汚いところを見せるわけにいかないと。大分だだ漏れだったとは思っているが、でも短絡的に体を繋げるようなことはしなかった。

「じゃあなんで、何もないんですか」
「いやでも、前には」
「それっていつのことですか。その時に嫌になったんですか? 俺が下手だから?」
「そんなことはない」

 正直、今まで何も知らなかったはずなのに体を開かれ快楽を覚えこまされていく様をみると、反対に興奮するぐらいだ。とは、口が裂けても言えない。恥じらいまごつきながらも拙く必死に応えようとしてくるのは、いじましく、本能に訴えかけてくるものがある。

「じゃあなんで、さっきは何もしないで寝ようなんて。先生は、俺とくっつくのを避けているみたいだったから期待しないでいようと思ったのに、今日は抱きしめられて、すっげぇ緊張したのに、寝るって。やっぱりしたくないのかなって……」

 泣きそうな声に聞こえて、体を抱き寄せた。そうしてつむじに口づける。
「悪かった」
「謝って欲しくないんすけど」

「不安にさせて悪かった。私が勝手に、きり丸が嫌だろうって決めつけていたんだ。あまり近づくと触れたくなるし、触れれば中途半端じゃ済まなくなる。だから近づかないようにしていたんだ。今日は、なんか、後姿を見ていたらたまらなくなって、顔を見なければ我慢できるかと思って。抱きしめて寝るぐらいなら体にも負担はかけないし、それぐらいは許されるかなと。あれ以上触れていたら、理性が保てなかった」

「本当ですか?」
「嘘ついているように聞こえるか? 白状すれば、今もお前の可愛らしい告白を聞いて、たまらない気持ちになってるよ」

 きり丸が絡ませてきた足をもっと深く絡ませて、わざと兆している自身が触れるようにする。その感触が何であるかに気が付いて、きり丸がびくりと体を跳ねさせた。

「ほら、そうやって驚くだろ。だから、無理はさせちゃいけないと思って……」
「そんな、だって、ひどい。俺がどれだけ先生を好きだと思ってるんですか。ずっと前から好きだったんです。それが好きだって言われて、触ってももらえて、それなのに何も思わない方がおかしいでしょ。俺は先生みたいに経験豊富じゃあないし、どうしていいか分からない」

「怖くは、ないのか?」
 いつか、壊してしまうのではないかとすら思った。震える肩で必死に恐怖を押し殺しているものだと思っていた。そうして、聞き分けのいい子供のように我慢して、我慢して、何も残らないのではないか、と。

「俺はいつまで先生の中で子供でいればいいんですか」

 不安だなんて大人の私が言うことを許さない、しっかりとした声。先ほど当てた私の中心を愛撫するように太ももが動いた。ぐりぐりと押し付けられて、反対にきり丸自身もまた私の太ももに押し当てられる。そこはもうすっかり反応していた。

「先生……」
 声が熱っぽくねっとりと絡みついてくる。
「して、ください。先生が欲しい」

 言葉だけで、こんなにも高ぶる。ぐわりと視界が揺れるような錯覚すら覚える。喘がせて、縋らせたい。直接的な欲が起きる。もう、これがどういうことかきちんと分かっていて、その上できり丸は誘っている。子供だとはもう思えない色気をたたえた唇から、早く、と言葉が漏れる。

「ああ、あげるよ。全部全部、もうお前のものだから」

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